琥珀のタカラさん
最初は、隠し通すはずの秘密をあっさり見抜かれ、動揺していたウブだったが、自分の苦悩を心から理解してくれているのがわかるその言葉に、ウブは泣いた。
泣きながら何度も頷く。
ウブ『…はい、…はい(泣)』
真央ママ『男の子でしょ、そんな泣かないで?笑』
真央ママ『貴方はまだ会ったことないかも知れないけどね、この夜の世界には私達と同じような人が実はたくさんいるのよ。それもみんながみんな、そういう人であることをウリにして働いてるわけじゃない。私のように身体に合わせて働いて、結果を出してから本当の自分に転身する方法もある。他にも…自分の目でみたほうが早いわね。今度会わせてあげるわ。』
真央ママ『でも、一つだけアドバイスをするなら、貴方を応援して指名してくれるお客様には隠し通すのではなく本当の自分をさらけ出したほうが良い結果に繋がるよ。売り上げの面でも、人間関係の面でも。お店の従業員みんなに打ち明けるかどうかはともかく、お客様には少しずつ打ち明けて、本当の貴方を応援してくれる人をたくさん見つけるのが良いと思う。』
真央ママは、帯の隙間から自分の名刺入れを取り出し、名刺を差し出す。
そこには確かに羽舞でも聞いたことがあるくらい有名なホストクラブの名前。そして、ママという肩書きの下に真央と書かれている。
真央ママ『私は、貴方のように身体を隠して心に合わせてラウンジなどで働く、そんな度胸がなかった。貴方にはそれがある。きっと成功する。』
立場は逆だけど、貴方と同じように自分の心に嘘をつかない場所で働いて結果を残している人を紹介する、と言って連絡先を交換してくれたママと共に、後日、とある高級ラウンジを尋ねることとなった。
この日の遅刻については、真央が代表の誠也に話をつけてくれた。
真央『私のワガママで引っ張り回すだけだから笑。同伴時間にも少し遅れるけど、後でこの子指名でドンペリ入れてあげるから、ね?笑』
誠也『あのね真央さん?笑他店のホストを連れてくるのは同伴にはならないんよ?笑』
ママ『あ、忘れてた、俺ホストだったわ笑。細けぇなぁ。じゃあフリーの女の子も一緒に連れてくっから!笑』
わざと男声に戻って笑いに変える真央。
最終的には、誠也は真央の申し出を了承した。
誠也『なんで真央ママが前回会ったばかりのお前のことそんなに気にかけてんのか、すこぶる謎だけど笑 せっかくだから勉強させてもらってこい!ママの好意、無駄にすんなよ』
ウブ『は、はい!』
訪れたのは、それほどの大箱ではないが、日本屈指の繁華街であるこの歌舞伎町で接客レベルに置いて3本の指に入ると言われ、政財界の大物や上場企業の役員なども来る、ここに通えることがステータスの一つ、などと言われることもあるお店だった。
lounge琥珀。
ウブ『うわ…すご…』
洗練された店内。
ホストクラブとはまた違った非現実感の世界が広がっていた。
初めて入るラウンジ。
挙動不審になってしまうウブに『こういうお店ではキョロキョロしないでスマートにするものよ?』と真央ママに嗜められてしまう。
真央『タカラさんを…』
キャストの一人だろうか、真央が誰かを指名して呼び出した。
しばらくして、黒っぽいドレスを着た、一人の女性(?????)が近づいてきた。
??『初めまして。タカラです。前、失礼しますね』
正面の丸い補助イスに座るタカラ。
大柄な彼女が座ると、小さな椅子が余計小さく見えたが、それは口に出してはいけないことだ。
タカラ『真央ちゃんも、久しぶりねぇ』
真央『ご無沙汰してます、タカラさん』
真央『ウブくん、この人は、この琥珀でずっとナンバーワンをキープしつ続けているタカラさんよ』
ウブ『え?ナンバーワン!?』