ママの秘密
羽舞『え?!…….え?』
混乱して写真とママを見比べるしか出来ない。しかしよく見ると確かに、本人だ。
いったい、どういう……。
ママ『私……実は身体は男なんだよ?』
目の前の和服美人が突然、野太い声になる。
ちょっと掠れたハスキーボイスは酒焼けかと思っていた。男の声を隠して高い声を出しているからだったとは…。
ママ『私はね、物心ついたときから女の子になりたかった。なれると思ってた。いつかこの邪魔なオチ○チ○が引っ込んで、そしたらスカートとか履かせてもらえるって信じてた。』
でも、そんなわけはなくて。
ママ『自分の力で、医学の力でなるしかないって悟った』
ママ『でも、サラリーマンになったって、フリーターしたって、そんなお金いつ貯まるか分からない。早く本当の自分になるには夜の世界しかないと思った。多分、貴方も同じでしょ?』
羽舞はまだ自分がそうだと認めてはいなかったが、ママにはもう全てお見通しのようだった。
ママ『夜の中でも、【ある意味】自分を偽らないで済む店もある。ゲイバーとか、おなベバーとか、おかまちゃんのショーパブとかね。でも、私は、自分を自分でバケモノと称して笑いを取れるほど心が強くない。』
羽舞『……』
いつの間にか羽舞の目には涙が浮かんでいた。目を潤ませながら頷く羽舞。
ママ『だったら、いっそ、身体の通りの男として、あと数年、自分を騙そう、そう決めて今働いてるホストクラブの門を叩いたの。』
え??
今働いている?
ママ『私、今もホストなのよ笑』
自分に嘘をつき、女の子が好きな普通の男として、女性客に接し、がむしゃらに頑張った。徹底して男らしく振る舞い、ときには無理して抱くこともあった。
その努力のかいあって、半年後にはその大きな店で一桁台の順位に入り、幹部補佐の肩書きを得た。1年後にはその店でナンバー3に入った。肩書きは主任に。
そこから半年、ナンバー1〜3を一度も落とさず、競い合いを続けた。
ママ『店長に昇進する話が出たとき、私はついにお店の代表に全てを打ち明けた。心が女であること、もう自分を偽るのに疲れたこと、身体を変えていきたいこと、そして、できればこの店で女性として働きたいこと』
ママ『代表は最初は驚いていたけど、黙って聞いてくれて、私の願いを聞き入れてくれた。』
そして、店長昇進のイベントの日、この和服で出勤したのだとママは言った。
ママ『代表は、その場で、実は私の心が女性であることと、今日から私が店長改めママとしてこの店で働くことを宣言してくれた。』
ママ『実は、当時残っていた自分のお客様にはもう殆どの人にバレててね笑。店外では女友達のように接してくれるお客様ばかりになっていたから…』
そういうところ、女性のほうが勘が良い。
他のホストを指名してるお客でさえ、中身が同性であることに気づくお客が多かったという。
同僚、部下のホストがびっくりしているなか、お客さんからは自然と『おめでとう』の声と拍手が巻き起こったそうだ。
ママ『だから、さっきの一緒にいたのは、私の同僚ホスト。女性は私を指名してくれてるお客様』
羽舞『そう…だったんですね…良い、代表さんですね。お客さんも……』
ママ『うん♪…ちなみに私がそういう存在であることは、今やちょっと有名になってきてるから。貴方の上司のホストくん達もみんな知ってるよ♪』
羽舞『え?』
ママ『なんで、わざわざこんな話をするかっていうと、いろんな方法があるって話。私は打ち明けてラクになった。』
羽舞『…はい』
ママ『もちろん私のほうが気楽だったと思う。だって私は身体、つまり世間の真実に合わせた場所で働いているから。でも貴方はこの男社会の中で身体が女だと打ち明ける、そんな難しいことはないわよね。でも女性として人生を生きるのはもっと耐えられないよね。』