妖艶な和服美人
店が暇になると指名客のいないホストは夜の街のキャッチに出る。
ウブもその一人。この日は、数日前に入店した後輩、愛武と一緒に歩き回って暇そうな女の子を探す。
元々、ナンパなどとは縁のなかったウブと違い、マナブは根っからのナンパ気質でチャラチャラした男だった。
全く物怖じせず、断られても落ち込まないタイプの彼はどんどん声を掛けにいく。
中学生にしか見えないと笑われては落ち込んでいるウブとは対照的だ。
ワイシャツの前を大きくはだけてシルバーのネックレスを見せた、いかにもホストといった服装が多いなか、上までボタンを止めてネクタイを締め、ベストを来ているウブ。
ホストっていうよりキャバクラの新米ボーイみたいと笑われたりもした。
マナブ『つか暑くないっすか?それ笑』
ウブ『あは、個人的にあんまり前開けるの落ち着かなくて笑』
結局、ほぼ(積極的な)マナブ一人のチカラで1組の女の子を捕まえて店に戻ることができた。
客数も増えていて賑わいを見せる店内。
ウブらが連れてきた新規客は1時間の初回料金の時間で帰っていった。電話番号は何とかゲットできたが、ここからの営業が難しい。
マナブ『あの子ら、絶対軽いっすよ。枕一発でイケルっしょ笑笑』
ウブ『あは…それは、どうかなぁ…(はぁ、この軽さが羨ましいな…)』
複数人で飲みに来ていた、おそらく飛び込みできたご新規客の中の一人が、さっきからチラチラとウブのほうを見ている。
手招きされてしまったので、イマイチ苦手な空気を感じながらもウブはその席に付いて接客を試みた。
一言、二言話して。マジマジとウブを上から下まで見回すその女性は、スラリと身長が高く着物をキレイに着こなす、どこか妖艶な雰囲気を醸し出す和服美人だった。
一緒に飲みに来ていた若い男、おそらく同業者だろう、と若い女の子(ホストのお客さんか?)からは、ママ、と呼ばれていた。
何か言いたそうな、思案する表情でしばらく黙ったママは、その席にいた役職者の勇輝に声を掛けた。
『勇輝?ちょっとだけ、VIP空いてる?使って良いかな?』
勇輝『ええ、構いませんが…』
ママ『少しこの子と二人でお話ししたくて』
とウブを指差す。
勇輝『うちのウブがなにか粗相しましたか?』
ママ『ううん、この子、伸び悩んでると思うけど、吹っ切れたら化けるんじゃないかと思ってね笑。ママのお悩み相談室〜♪みたいな?笑』
『別に特に悩みは…』と言いたいところだったが、こんな機会滅多にないから、相談に乗ってもらえ!とママと二人でVIPに放り込まれた。
絶対に他のホストを入れないでね、盗み聞きもダメよ♪とママが釘を刺して、扉を閉める。
ビール数本とグラスだけ持ってきてもらい、乾杯をする。
ママ『まどろっこしいの好きじゃないから、単刀直入に言うわね。』
ママ『ウブ君、アナタ……本当は女の子でしょ?』
『んぐっ』
突然の一言にウブは口に含んだビールを吹き出しそうになってしまう。
ウブ『いや、何言ってるんですか(汗)そんなわけ』
ママ『うん、本当は女の子、って言ったら語弊があるかな。本当は男の子。でもアナタの身体は…女の子。つまり、おなべくんでしょ?』
違う?とママにジッと目を見られ、ウブは口ごもってしまう。
ママ『……見たら分かるのよ、同じ悩みを持つ人のことはね?』
ウブ『え??同じ…悩み?』
何を言ってるんだろう、この人。
混乱するウブ。
ママ『さっきの一緒にいた男の子達と私、どういう関係だと思う?』
ウブ『えと。ママが贔屓にされてるホストクラブのホスト?じゃないんですか?』
ママはクスクス笑い、その回答の正誤は明かさないまま帯の隙間から自分のスマホを取り出して画面に写しだされた写真をウブに見せた。
そこに写っているのはどこかのホストクラブでNo3の枠に納められ【副主任・真央】と書かれた、ホストのパネル写真だった。
ママ『これ、私(笑)約1年前のね』