五話 受け継いだ者6-1
霖之助は一人、普段は通らない道を歩いていた。
真っ直ぐ家には帰りたくなかった。
部活中や、終わってから部室で着替えていた時を思い出す。
時々こちらを見る謙。霖之助が視線を向けると気まずそうに、目を伏せていた。話しかけようかと迷っているような様子だった。
それは、霖之助も同じだった。
悪いことをしたとは思っていない。謙の言葉には、本当に腹が立ったし、ガッカリしてしまった。
それが、友人の意思ではなく、周りに流されてそうなってしまったから、尚更だった。
しかし、過去は変えられない。
謙は、後悔しているのだろうと思う。
あの表情は嘘ではないと霖之助は信じている。
自分も、強い人間ではない。強くなろうと思ったのは。華子と出会ったからだ。
何かきっかけがあれば、その時から人の心は変わるのだろう。
弱くも、強くもなれるのだろう。
謙が、これから華子に対して周りの意見に流されずに接してほしいと霖之助は思っていた。
(でも、そうなると……キタはまた、橘を好きになるのかな?)
華子は、話し辛い自分よりも、謙を選んでしまうのではないか。そう考えると、霖之助は、また自分にガッカリした。
(結局、俺も駄目じゃん)
小さく息を吐き、立ち止まる。
さっきまでまだ明るいと思っていた空は、藍色に染まり、徐々に黒へと変わっていく。
(もう夏は終わったんだ)
夜の訪れと、季節の変わり目は、風にも感じる。夏の茹だるような熱をどこか別の世界へと攫っていくような気がした。
別の世界――
(橘のいた小学校……)
不意に、霖之助は思い出した。
数か月前に知った世界だ。
お化けが普通に存在していた。
霖之助はこれまで幽霊やお化け、妖怪といった存在がいるかもしれないと思っていたけれど、見たことはなかった。華子が見えるという噂を知った時も、見える人にだけ見える存在なのだと――
しかし、彼女達はそこにいた。触れることはできなかったが、話しをして、遊んで、笑い合うことができた。
その世界で、霖之助は久しぶりに子どものように夢中で遊んだ。
(あそこだったら、橘とも普通に話せるかもしれない)
そこまで考えて、霖之助は自嘲気味に笑う。
(他力本願……ダッサ、俺……)
また大きく息を吐いた。
生暖かい風が頬を撫ぜていく。
それが妙に気味が悪くて、霖之助はハッとしたように顔を上げた。
「……あれ?」
違和感を覚えた。




