五話 受け継いだ者5-3
病院に到着し、瑠奈はすぐに検査室へと運ばれた。
華子は待合室に座って、握った手をじっと見詰めていた。汗ばんだ手は、それでも冷たかった瑠奈の掌を思い出す。
(大丈夫……大丈夫)
祈るように拳を額に当てた。
「瑠奈は? 瑠奈は大丈夫なんですか?」
不意に、慌ただしい足音と共に、悲鳴にも似た女性の声で、華子は顔を上げた。
「落ち着いてください。平井瑠奈さんのお母様ですね?」
「は、はい……! 娘は?」
瑠奈の母親が、迎えた看護士に縋りつき、娘の容態を何度も尋ねていた。
「大丈夫です。大きな怪我はありませんでしたし、後は意識が戻られるのを待つだけです」
看護士が落ち着いた様子で答えた。
母親は娘に会えていない不安からか首を横に振って、近くにある長椅子に腰を下ろした。
華子は見ていることしかできなかった。
その視線に気付いたのか、母親が華子の方へと向いた。
「……あなたは……?」
華子は立ち上がって、会釈をした。
看護士が代わりに説明する。
「娘さんのお友達が、病院まで付き添ってくれたんです」
「た、橘、華子です」
はじめて会う大人に華子はやはり緊張し、言葉が上手く出なかったが、どうにか自己紹介をした。
瑠奈の母親はどこかホッとしたような顔をし、深く礼をした。
「ありがとう。えっと、ダンス部の?」
「あっ、いえ……同じクラスで……たっ、偶々通りかかったら、平井さんが……」
華子がしどろもどろになりながら答えると、母親は「そうだったんですか」と大きく息を吐きながら言った。
娘のことがあってか、少しやつれてはいるが、すらりと背が高く、整った顔立ちの女性だ。
また足音がした。忙しない音だった。
「あなた……」
「瑠奈は?」
大柄で丸顔に眼鏡をかけた男性だった。瑠奈の母親が「あなた」と呼んだということは、瑠奈の父親だろう。瑠奈の容姿は母親似らしい。
「何があったんだ? 電話では外で倒れたと言われただけで、よく分からん。状況を説明してくれ」
体は大柄だが、どこか神経質そうな父親は、眼鏡を忙しなく動かしていた。
母親はうんざりしたように自分の両腕を擦った。
「説明も何も……倒れてたんだからそうなのよ」
「は? なんだ、その言い方は? 俺は何が原因なのかと聞いているんだ。事故なのか? 事件なのか? それともただ転んだだけなのか? そういうことをだな……」
「今、それを調べてるって警察の方も仰っていたでしょう? どうせ、あなたのことだからまくし立てて聞いてらっしゃらなかったかもしれませんけど」
「さっきも言っただろう? 倒れたとだけ聞いたんだ。まったく、おまえはすぐ……」
華子は、目の前で一体何がやり取りされているのか分からなかった。
(え……ご両親は、本当に平井さんが心配なの……?)




