五話 受け継いだ者4-3
空はまだ茜色で、夏の暑さが名残惜しそうに残っている。
あれだけ五月蠅かった蝉の声は、気付けば聞こえなくなっていたが、代わりに秋の虫なのだろうか、違う鳴き声がどこからともなく聞こえていた。
瑠奈の家までは校門を出て、主に大通りを通るため、人通りは確かに多い。しかし、誰かが瑠奈の存在を見守ってくれているわけではない。皆、家路を急いでいるし、夕飯のための買い出しで忙しい。
瑠奈は数年前に隣町からここに引っ越してきたため、地元感も薄かった。
学校を一歩出れば、知り合いと呼べる大人は殆どいない。
かといって、家に帰っても、待っている家族はいない。両親ともに仕事で、高校二年の姉の日葵は高校の寮生活だ。日葵は優秀で、両親は彼女に期待を寄せていた。彼女にだけ、と言った方が正確かもしれない。ここへ引っ越してきたのも、日葵の中学受験のためといっても過言ではなかった。引っ越す前には、姉の受験合格のために、両親とよく近所の神社や小さな社にも手を合わせた。
そのおかげなのかは定かでないが、姉は両親の期待を裏切ることなく、中学も高校もトップクラスの学校へと進学したのだ。
今は寮に入っているから、夏休みや冬休みといった長期の休暇以外は会えないが、瑠奈は正直寂しいとそれほど思ってはいない。仲が悪いわけではないが、特別良くもなかったからだった。日葵はいつも勉強し、塾へ通い、小さい頃も今も瑠奈と一緒に遊ぶことは殆どなかった。
恐らく、日葵も妹にそれほど興味はないと瑠奈は感じていた。
大通りをある程度歩いた時、瑠奈は足を止めた。
(あっ……あれは……)
通りの向かい側にある小さなスーパーから出てくる人物に合わせ、視線を動かす。
(橘? あいつ、なんでいんの?)
橘華子は、小学中学年くらいの少年と三十代くらいの女性と一緒だった。
(あいつの家族? でも、あいつは確か姉弟いないはず……)
瑠奈の視線に気付くことなく、華子は学校では見たことない笑顔で遠慮する女性の買い物袋を持ち、満面の笑みの少年と手を繋いで歩き出した。
通りの向こう側にいるとはずなのに、微かだが彼女達の笑い声も聞こえてくる気がした。
(マジ、なんなの? あいつ……)
学校では笑わないし、目立つことなど全くないのに、今目の前にいた華子は、キラキラとして幸せそうだった。
瑠奈の中を惨めさと悔しさがじわじわと支配する。
華子達が歩いて行った方へ帰るのが嫌になり、足は自然と人気のない方へと向かった。




