五話 受け継いだ者4-1
朝からの苛立ちを、平井瑠奈は放課後になった今でも引きずっていた。
部活動のダンスにも身が入らない。
(なんであたし達が吾妻君に怒られなきゃなんないの? あいつが調子乗ってんのが悪いんじゃん)
あいつとは、橘華子のことだ。
瑠奈は華子が嫌いだった。
暗くて、何かをする度にビクビクし、見ているだけでイライラさせられるからだ。中学に入ってから二年間同じクラスだが、華子の笑顔は殆ど見たことはないし、時々あらぬ方向を見詰めている時があって、気持ちが悪い。ずっと一人でいるくせに、あまり気にする風でもないところも気に食わなかった。
そんな嫌いな女のせいで、自分が好きな吾妻霖之助に怒られるなど、瑠奈にとっては世界が崩壊する次にあってはならないことだった。
瑠奈は成績優秀で、スポーツもできた。
周りからは可愛いと噂されているし、同じ学年からだけでなく、三年生からも告白されたことだってある。
それは、自分が可愛くあろう、綺麗でいようと常に努力しているからだと瑠奈は思っていた。雑誌でメイクを勉強して、流行りの物をいち早く取り入れている。
今日だって、流行りのリップをつけてみたものの、肝心の男子生徒は見向きもしなかった。
(マジムカつく……)
自分をもっと良く見せるために、こんなに努力をしているのに、よりにもよってなぜあの女なのだ。
今まで、容姿で負けたことなどない。成績では、唯一霖之助に負けただけだった。
そんな瑠奈にも、一つだけ自分の認める弱点があった。
(幽霊が見えるとか、マジで頭おかしいし)
華子は、それが見えると、彼女と小学生の頃から一緒の友達が言っていた。
彼女と関わると、呪われる――と。
(いるわけないのに)
瑠奈は幽霊やお化けといったものも嫌いだ。本当にいるなんて信じたくもない。
非科学的だとか、宗教的にどうだとか、そういう難しいことではなく、単純に怖いから嫌いなのだ。
もちろん、友達には『見えないんだから、いるわけない』と虚勢を張っている。
怖いものがあるなんて、格好悪いからだ。
(あぁ! もう! 集中しなきゃ! そろそろ文化祭のダンスメンバーを決めるオーディションもあるんだから)
ダンス部の夏の大会はすでに終わり、次の発表の場は文化祭だった。
大会の時は、瑠奈も三年生に交ざり選ばれていた。でも、その時の立ち位置に、瑠奈は満足していない。
(今度こそ、一番前の列でパフォーマンスする!)
ダンスを始めたのは小学生の高学年で、部内でも遅い方だが、瑠奈は厳しい練習にも必死に食らいついていた。
「平井! さっきから半テンポずれてるの気付かないの⁉ やる気ないなら帰れ!」
「いえっ! すいません!」
顧問教師の緑川からの叱咤に、瑠奈は張りのある声で返した。




