一話 呪われた彫刻4-2
(つまんないなぁ……もっと怪談話をしたいのに)
自分からそんな話をしても、乗ってくれる友達はいなかった。
新しいゲームやアニメ、動画配信者の話の方が、みんな面白いようだった。直也もそれらの話が嫌いではないが、怪談話の方が好きだった。時々動画でも怖い話を観ている。でも、好きなことは人それぞれで、押し付けることはできないし、直也はひっそりと怪談好きを楽しむことに決めていたのだ。
その密かな楽しみを今目は堂々と目にすることができる。きっとしばらくはみんな怪談話をしてくれるだろう、と微かな期待もしていた。
三時限目が図工の時間だ。
やっとこの目であの彫刻を見ることができる。図工室や音楽室といった特別教室は、授業がなければ鍵がかかっているから、チャンスは図工の時間だけだ。
直也がワクワクしながら待っていると、二時限目の最後に先生が言う。
「今日は、教室で図工の授業をします。みんな、ここで待っていてね」
「はぁい」
先生の呼びかけに、児童達は元気良く返事をした。
ただ、一人を除いて――
(えっ……今……先生はなんて?)
待ち望んでいた時間。それが一瞬で覆された。
なぜか耳が痛い。呻き声が聞こえてきた気がした。
それが自分のものなのか、別の誰かのものなのか分からない。
窓を打つ雨が、激しくなっている。もしかすると、呻き声の正体は、それなのかもしれない。そう思ったが、徐々に近くなってくるような気もした。
先生が教室を出た後、直也は机に突っ伏した。泣きたい気持ちだった。隣の席の愛美が、「直君、具合悪いの?」と心配してくれたが、返事ができなかった。
確かに具合が悪い。
呻き声のせいだ。それがハッキリとしてくる。と、同時に、意識が波打つ感覚がした。
(今日、学校へ来た理由は、一体何だっただろう?)
楽しみが、悲しみと怒りに変わっていく。
見たい、見たい――見たい。
どうしても呪われた彫刻が見たい。
直也は、その想いに囚われていた。
(ぼく……行かなきゃ……)
もう少しで休み時間が終わる。
しかし、直也はふらりと立ち上がった。
「直君、もうすぐ授業始まるよ?」
背後から愛美の声が聞こえた。が、それが直也に届くことはなかった。
(行かなきゃ……図工室……)
自分の中で、別の誰かがそう囁いていた。
おいで、おいで……
一人ではない。
数多の声が、雨音を掻き消していった。




