五話 受け継いだ者3-2
それに、霖之助はまた恥ずかしくなる。今まで、こういったことを友人と話したことがないし、自分の気持ちを人に知られることが若干怖くもあった。
謙は確かに良い友人ではあるが、どこかでまだ信じて切れていない自分がいたことに、霖之助は気付いた。
しかし、そんな霖之助の不安と不信感には気付いていないのか、謙は再び口を開いた。
「実は、さ……俺も好きだったんだよね、橘のこと」
「えっ⁉」
霖之助の中で謙に対する不安と不信感がさらに大きくなっていく。霖之助は、努めて冷静な表情を作っていた。だが、恐らくその努力はもう無意味なことも知っていた。
謙は、ただ心情を霖之助へ吐露しているのだから――
「中学に上がる前だよ。小学の時から一緒でさ。その頃は時々話したりもしてたんだぜ。あいつ、実は結構面白いし、笑った顔が可愛いし……橘はきっと俺と話したこと憶えてなさそうだけど。その頃から、あいつは一人が多くて……でも、俺はリンのように助けてあげようってなれなかった。気付いたら、みんなと同じことしていた」
「なんで?」
「橘って、幽霊が見えるって言うじゃん?」
謙の言葉に、霖之助の顔は一瞬強張った。
謙はやはりそれには気付いていないようだった。
「みんながさ、橘と関わると呪われるって言い始めて、俺も……そう思っちゃったんだ」
「橘が呪うわけないだろ」
「もちろん、今はそう思ってるよ」
思わず強い口調になった霖之助に、謙もすかさず言い返した。
「でも、俺はリンみたいに強くなれなかった」
「俺が強いわけじゃない」
部活の準備はとっくに終えていた。
霖之助は立ち上がり、部室のドアへ向かう。
「本当に強いのは、ずっと我慢してる橘の方だよ」
でも、本当は彼女だって強くはない。
首を竦めて、拳をぎゅっと握り締めている彼女は、今にも壊れてしまいそうだ。
「……うん、そうだよな」
謙の返事は、辛そうだった。
(後悔するなら、なんで……?)
歯痒い気持ちが心の中でざわざわと蠢いた。
しかし、考えても仕方ないともどこかで分かっている。
霖之助は、「先に行く」と言って、部室を後にした。
朝から変わらず接してくれた、ニックネームを付けてくれたはじめての友人――
彼と、もしかすると二度と今までのように話せなくなるかもしれないという悲しみを抱きながら、霖之助は校庭へ向かったのだった。




