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五話 受け継いだ者3-1

 朝のことがあってから、霖之助に矢鱈と話しかけてくる女子生徒はいなかった。

 それどころか、みんな腫れ物のように接してきていたように思う。


(みんな、勝手だな)


 だが、霖之助は気にしていなかった。

 華子は、いつも独りだ。

 二学期が始まり、華子はみんなと関わろうと少しだけ努力していたように見えた。

 自分から挨拶をしていた時もあれば、当番の仕事が大変そうなクラスメイトには手を差し伸べていた。だが、どれも相手からの返事はなく、華子は困った顔で離れていくのを霖之助は見ていた。

 見ていることしかできなかった。


(橘はあんなにがんばってるのに……それに)


 霖之助は知っている。

 華子が本当は明るくて、人懐っこく、ツッコミが鋭くて、オーバーリアクションをする面があり、誰にでも平等に接することのできる子だということ、霖之助は以前巻き込まれた不思議な事件で知ったのだ。

 そして、元々華子に興味があったが、ますます彼女から目が離せなくなっていることを霖之助自身も気付いていた。


(これって、そういうことだよなぁ)


 部活の最中でも、家に帰っても、華子は何をしているのだろうと気になっている。

 夏休み中はなかなか会えなくて、登校日にはなんとか挨拶を交わせた。

 あの事件を一緒に体験したからなのか、挨拶だけは返してくれるようになった華子だが、普通の会話まではなかなかできなかった。


(どうやったら話してくれるんだろう? てか、俺の話しかけ方がまずいのかな?)


 夏休みに何か楽しいことがあったらしい華子は、時々思い出したようににまにましている。

 それがちょっと悔しかった。

 夏休み中、霖之助は部活が忙しく、そして何よりも華子にどこか遊びに行こうと言える勇気がなかったから、結局会えたのは登校日だけだったのだ。


(あんまり教室で話しけると、今日みたいな思いをさせちゃうし……)


 部活の準備をしながら頭を捻っていると、不意に声がかかった。


「リンリン! どした?」

「……キタ、そのリンリンっていうのやめて」


 北川謙の元気な問いに、霖之助はうんざりとした表情で返した。

 しかし、朝のことがあっても唯一態度を変えなった謙に、ホッともしていた。


「じゃあ、リン。だってさぁ、霖之助ってちょっと長いじゃん? それに、仲良くなって長いのにさ、吾妻ってちょっと堅苦しいし。リンだって、俺のこと、キタって呼んでくれるから、ニックネーム付けたかったんだよ!」


 素直にそう言う謙に、また霖之助は安堵のような気持ちが湧く。


(キタみたいに言えたらなぁ)


 隣で準備をし始めた謙は、何気ない調子で言う。


「てかさ、リンって、橘が好きなん?」

「ッ……!」

「あ、やっぱそうなんだ」


 ギョッとしたように手を止め、自分を見る霖之助に、謙は別段気にする風でもなく続けた。


「確かに、結構可愛いもんな、橘」

「……」


 何も言えない霖之助に、謙はやっと顔を向けた。友人の表情に、今度は謙が驚いた。


「えっ? もしかして……気付かれてないって思ってた、とか?」

「……う、うん」


 霖之助が正直に頷くと、謙が苦笑した。

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