五話 受け継いだ者2-2
「あいつ、なんで吾妻君に話しかけてんの?」
「地味なくせに調子乗ってんじゃない?」
「橘って、前に幽霊見えるって言ってなかったっけ?」
「あぁ、それで見えるからって自慢でもしたんじゃん?」
「うわぁ、マジでキモイ」
「ちょっと前さ、挨拶されたんだけど、なんか暗くて……関わってほしくないんだけど」
「返しちゃダメだよ。呪われちゃうかも」
「やだぁ……ほんと、やめてぇ」
華子から少し離れた席で、数人の女子生徒がひそひそと話している。
(聞こえてるんだけど……)
他のクラスメイトにとっての華子の普通は、『暗くて地味で、誰からも好かれないやつ』とすでに定着してしまっていた。
(これを変えるのは、もうしんどいなぁ)
美優紀が思ってくれている華子のイメージや、霖之助が話しかけてくれる華子は、別の人物なのではないか。華子自身ですらそう思っていた。
少しだけ辛くなり視線を伏せた時、霖之助の静かな、しかしはっきりとした声がした。
「いい加減にしろよ」
教室内が一気に静まり返る。
華子も顔を上げた。
霖之助が怒りの表情でさっきの女子生徒達を見据えていた。
整った顔立ちの怒りの表情は恐いと聞くが、確かに見る人を圧倒する恐ろしさがあった。
女子生徒達もまさか自分達が好きな男子から注意されるとは思っていなかったのか、蒼褪めていた。
三十人弱いる生徒の誰もが話せない時が過ぎた。
そこに、教室のドアがガラガラと開く音が響いた。
担任教師の松原だった。
「おはよう、みんな…………どうかしたか?」
入ってきた松原は、静まり返った教室に戸惑っていた。
霖之助の「別に」という言葉を合図に、松原も「あ、ああ」と返す。
「じゃ、じゃあ……みんな、座るように。ホームルーム始めるぞ」
生徒達も、やっとガタガタと自分の席に戻った。
松原は、生徒達きちんと席に戻ったことを確認し、数度頷いた。彼の癖だった。
「今日は、朝からみんなに伝えなければならないことがある。テレビのニュースで知っている者もいるかもしれないが、昨夜この近くで中学の女子生徒が、その……線路付近の歩道橋で殺害されてしまうという悲しい事件が起こってしまった」
華子の中で、急にざわざわとしたものが湧いた。
「犯人はまだ捕まっていないそうだ。うちの学区内から近いから、みんな、なるべく一人では帰らないように。部活動で遅くなる者は、必ず友達と帰るんだぞ?」
松原はそう言って、生徒を見回した。
華子は咄嗟に下を向いた。
(歩道橋……)
夏休みの楽しい思い出に忘れかけていた。
華子の唯一の親友の言葉――
『ハナ、しばらくは夕方から線路や歩道橋の付近に近付かないこと』
形のないざわざわとした感覚が、心の奥で警鐘を鳴らしていた。
「あと、不審な人物を見かけてた場合はすぐに……」
松原が、他に何か言っていた。
が、華子はもう聞いていなかった。




