五話 受け継いだ者2-1
夏休みにいくら楽しいことがあったからといって、通常の学校生活は簡単に変わらない。
校門を潜っても、誰とも挨拶をすることはなく、教室内で今流行りの話題や好きな人のこと、部活のことを話す友達はいない。
夏休みから一週間経ち、華子にとって、空気のように過ごす毎日が戻っていた。
休み期間中に誰かと一緒にいられた分、二学期が始まってから少しだけ寂しく感じていた。
みんなが夏休みの話題を共有する中、誰とも話せないことが辛かった。
でも、その夏休みの思い出が、華子を支えてくれていたといっても過言ではない。
(友達がいる夏休みの思い出なんて、初めてだったもんなぁ)
思い出しただけでも、頬が緩む。
直也の母親の美優紀とは、あれからさらに仲良くなり、ショッピングまで一緒に行くようになった。
美優紀がよく行くカフェで、学校でいつも独りだと話せば、『ハナちゃんの良さ、知ってほしいなぁ』とまるで自分のことのように残念がっていた。
知ってもらうには、まず行動しなければならいだろう。
二学期が始まって、華子は少しでも話せるクラスメイトを作ろうと、席が近い子に挨拶をしてみた。
が、誰からも返ってこなかった。
困っていそうなクラスメイトに、声をかけてみた。
しかし、さらに困ったような表情をされ、そそくさと離れた。
そして、今はまた元の生活に戻っている。
(友達って……どうやったらできるの?)
考えても答えはなく、孤独という状況をまた受け入れるしかなかった。
「橘、おはよ」
「へっ? あ、……お、おはよう、吾妻君」
いや、一人だけ話しかけてくる男子生徒ができたのだ。
この学年で、一番人気のある男子生徒の吾妻霖之助。
なぜ彼が自分に話しかけてくれるのか、華子には分からないが、事あるごとに声をかけてくれる彼に助けられていることに気付いていた。
「宿題やった?」
「うん、今日はばっちり」
華子が答えると、霖之助は優しく微笑んだ。
彼のその表情を見ると、自然と頬が熱くなるのを華子は感じた。
(やだっ、吾妻君に気付かれちゃう……)
イケメンでスポーツも勉強もでき、優しくて、そこまで口数は多くないけれど、男女問わず人を惹き付ける霖之助は、華子の憧れの人物でもあった。
(なんで、わたしなんかに話しかけてくれるんだろう?)
それはやはり考えても分からなかった。
しかし、背後から向けられる痛いほどの視線の理由は、華子でも分かる。




