四話 呼ぶ山10-2(四話完)
「ハナちゃんは」
美優紀が切り出した。
「照さんと同じなのね」
「っ……」
「直を助けてくれた時から、何となくは感じていたけど」
華子の線香花火の方が先に落ちた。
小さな灯りだったはずなのに、辺りがすっと暗くなったような感覚に襲われる。
美優紀の線香花火も、ぽとりと地に吸い込まれた。
いつの間にか、辺りは夜に包まれていた。
――と、庭の真ん中がパッと明るくなる。バババッと花火が勢い良く天に向かって上がっていた。
「すっごい! きれい!」
満面の笑みの直也が照らし出されては影になる。
「わたしは、あの人やハナちゃんのように見えないけれど、信じているわ」
「美優紀さん……」
息子の直也が、幽霊やお化けを信じるように、美優紀もまた、見えない存在を否定しなかった。
「私ね、今回のこと、実は少しだけホッとしたの」
「ホッと?」
美優紀は、疲れたように微笑んだ。
「あったかい家族がいて、ママ友や学生時代の友達もいて、暮らしも安定してて……何も不自由がないのに、心のどこかで寂しいって思っていた自分がいたことに、気付いてあげられたもの」
美優紀は、また息子と夫を見た。
「良い顔をしようって、私は満たされてるんだって……誰かに見せようと、どこかで必死になってた。自分と他人に優劣をつけようとしていた。でも、それに疲れてた。自分は自分でいいのにね」
華子は意外だった。
美優紀は美人で優しくて、傍から見ても幸せを絵に描いたような家庭を持ち、満たされているのだろうと華子は勝手に思っていたが、それが返って重荷になっていたことに驚いた。
直也がまたこちらへ走ってくる。
「お母さん! ハナ姉ちゃん! こっちで花火やろうよ!」
「手持ちのやつ、まだあるだろ? みんなで一緒にやろう」
照もまた二人を呼んだ。
美優紀はすっと優しい笑顔になる。
「そうね、やりましょう!」
それは無意識なのだろう。
「ハナちゃん、ほら。いきましょう」
華子が誰かの前では笑顔でいようとするように、美優紀もまたそうしている。
(みんな、寂しいんだ)
大勢の人に囲まれていようとも、他人の目から見て幸せそうであろうとも、根本的なことは変わらない。
だから、この山は呼ぶのだろう。
誰もが見ない振りをしている、心の奥底にそっと触れるように――
蝉の声はもう聞こえない。
(花子は、どうして――?)
華子は、花火を手に持ちながら、白い子ども達と、赤いワンピースの親友を想ったのだった。
~四話完~




