四話 呼ぶ山9-1
美優紀は、捜しに来てくれた釣り具屋のスタッフの男性が到着した時に目を覚ました。状況を理解するまで時間がかかっていたようだが、意識も足取りもしっかりしていたため、病院へは行かなくてもよかった。
「お騒がせして、本当に申し訳ございません」
捜しに来た釣り具屋の男性と数人の警察官に、美優紀と照は深々と頭を下げた。
華子と花子が森に入った後、照は釣り具屋の男性にも助けを求めたようだった。
男性はすぐに警察へ通報し、辺りの捜索が始まったらしい。
しかし、森は華子と美優紀以外の人間を受け入れなかったため、捜索隊とは会うことがなかった。華子が彼らの存在に気付いたのは、釣り具屋の男性が来てくれたからだ。
「見付かってよかったです」
男性は心底ホッとした表情で言った。警察官達もそれぞれ胸を撫で下ろしていた。
ただ、華子には苦笑して、「無茶はしちゃいけないよ?」と注意をした。
華子は、もっと怒られるかと思っていたが安堵し、素直に「はい」と頷いた。
数人の警察官はそこでまた自らの職務に戻っていった。
「ここら辺では、時々あるんですよ、こういったことが」
釣り具屋は言った。
「女性ばかりがふらりといなくなるんです」
「確か、借りた時も仰っていましたね」
まだ顔色は青白いが、いなくなる前の記憶ははっきりしているようで、美優紀が答えた。
釣り具屋は首を縦に振る。
「今時はあまり言わないでしょうけども、神隠しってやつです。昔は、口減らしのためこの山に子どもを置き去りにしていたようで……そんな子ども達の祟りなのかもしれません。さっきまで、ご家族やご友人と一緒だった人が急にいなくなってしまう……数年前も、捜索したが見付けられなかった」
「何も対策をされていないのですか?」
照がやつれた顔で訊いた。
釣り具屋はまた首を縦に数度振った。
「耳が痛いです。ここら辺一帯は何もない。だから、避暑地としての人気を手放したくはなかったのです」
「そんな……」
そう言いかけて、照は止めたようだった。
この人を責めても仕方がないと、自らに言い聞かせているようにも華子には見えた。
「そっと注意喚起するように、わたしのようなもんがこの店をやってます。しょっちゅう起こることでもない、そんな甘い考えが今回のことを引き起こしてしまった……あなたには、申し訳ないと思っています」
今度は、釣り具屋が頭を下げた。
それに美優紀は驚いて、男に手を差し伸べた。
「頭を上げてください。お騒がせしてしまったのはこちらですし、本当にその……神隠しだとしたら、人の力だけではどうしようもないでしょうし……」
美優紀が、ふと華子を見た。
華子はドキッとして、思わず目を逸らしてしまった。




