四話 呼ぶ山8-4
花子――と名前を呼ぼうとしたが、なぜか声が出なかった。喉の奥が熱い。込み上げてくるものがあるのに、それは言葉にならない。
華子の目から、涙が溢れた。
(花子……なんで? 助けてくれないの?)
白い腕の濁流は、気付けば華子の周りをぐるぐると取り囲み、どんどんと膨れ上がっていた。
(さみしい……さみしい……サミシイ……)
確かに今までも寂しかった。
でも、花子がいたから、友達がいないなんて、ここ数年は思わなかった。
しかし、今は目の前にいるはずの花子がとても遠い。
(何か悪いことしちゃったの? もしかして、花子は、元々わたしを……?)
嫌な考えが浮かんだ。
ここに来てから、花子の様子がおかしかった訳は――
(わたしを生贄にするためだった……?)
花子の方を向きたくても、白い腕が視界を遮る。
声と甘い匂いに包まれる。
じわじわと体から力が抜けていく。体力も、気力も、なくなっていく。
その間に、華子の体は鳥居へと徐々に引き寄せられていく。
(なんだかよく分からなくなっちゃった……花子に見捨てられたら、わたしに何もないし……)
孤独に慣れたつもりでいた。
しかし、それは一生慣れるものではないのだと華子は気付いた。
また、ビキビキッと軋む音が辺りに響き渡った。
大量の腕に呑まれてもなかなか引き寄せられない華子に焦れたのか、巨大な白い者が鳥居にその強大な頭を突っ込んでいた。
まるで胎児が外へ出ようとするように、頭の形を変え、ぬるりぬるりと鳥居から出てくる。
華子は腕の隙間からそれを茫然と眺めていた。
(あぁ……もう、なんでも……)
『やっと出てきたか』
ユウカの低い声が、どこからともなく響いた。
と、その瞬間、華子は立っていられないほどの強風に煽られ、危うく吹き飛ばされそうになった。
「ッ……⁉」
どうにか踏ん張り、目を開ければ、白い濁流は綺麗さっぱりなくなり、ユウカが白い者を鳥居から引っ張り出そうとその大きな頭を両手で鷲掴みしていた。ぬるぬるしていそうなそれを逃すまいと、ぐっと指を立てている。しかし、白いそれからは血が出ず、ずぶずぶとユウカの指を呑み込んでいた。
『もうおまえの好きにさせるわけにはいかない。此方へ来るのだ』
白いそれは、動揺しているのか、ユウカの手から逃れるため、鳥居へと引っ込もうとしている。
華子は、やはり茫然とそれを見ていた。だが、少しずつ体の感覚は戻ってきていた。
『ハナ』
不意に呼ばれ、華子は力なくそちらを見た。
ぼやけた視界の中で、赤い何かが揺れている。
「は、なこ……」
『そうよ、ハナ。ちゃんとあたしを見て!』
ちゃんと見ている、と言いたかったが、思っていた以上に精気を呑まれてしまっていたようで、焦点がなかなか合わなかった。
『ハナ!』
(さっきまで、わたしが呼んでも答えてくれなかったくせに、勝手なおばけね……ほんと)
『ごめん。本当に、……ハナ、ごめん』




