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四話 呼ぶ山8-1

 飛び起きれば、元いた森だった。

 華子は、スマートフォンを見る。


「五分くらいしか経ってないんだ」


 随分長いことあっちにいた気がした。

 ホッとしたのも束の間、花子の緊張した気配に華子は顔を上げる。


『ここから離れるわよ!』

「うん! でも、どこへ行けば……?」


 木々の合間を駆ける。

 飛び出している根に、足を取られそうになる。

 が、赤く揺れるワンピースに導かれるまま、華子は走った。


(どっ、どこへ行くんだろう? 花子はどうして道を知ってるの?)


 それに、花子が言っていた言葉も気になっていた。


(わたしが狙いって、どういうこと?)


 切れる自らの息に、時々振り返る花子の表情が、湧いてくる疑問を拒む。

 華子は無理にでも走ることに集中した。

 しばらくすると、小さな石の鳥居が見えてきた。

 乱雑に積まれた石の階段を上る。

 花子は鳥居の前で止まる。華子も、倣って足を止めた。


「っ……はぁ……はぁ……ここまでくれば、大丈夫?」


 花子は何も応じず、鳥居の向こう側を睨んでいた。


「ね、ねぇ……花子?」


 華子は何も答えない花子の背から、鳥居に視線を向けた。

 鳥居は、よく都会で見る大きな神社のそれとは違い、本当に小さく、花子や直也くらいの子どもがやっと一人通れるくらいの高さだ。台石は苔生している。随分前から手入れもされていないようだった。

 ここにも夏らしい雰囲気は一切なかった。汗は流れるのに、それは暑さのせいだけではない。

 だが、妙に空気が澄んでいた。それが返って気味が悪い。

 花子の透けた体越しに、鳥居の向こう側を見た。


「あっ……! 美優紀さん⁉」


 薄っすらと見えたそこには、美優紀らしき人物が横たわっていた。


「今助けてッ……」

『ハナ! ちょっと待って!』


 花子の制止は、物理的に華子を止めらないにしても、行動を止める力があった。


「なっ、何……⁉」

『あたしはこの中に入れないの。だから、相手を誘き出さなきゃ』

「そんなこと言っても、何を誘き出すの? ここに一体何がいるのよ?」


 花子は、辺りを窺っている。

 先ほどから答えてくれない花子に、華子はいい加減イライラしていた。


「花子! さっきからなんなの⁉ ここに来れば、安全じゃないんなら、どうしてわたしをここに導いたの⁉ わたしが狙われているから? わたしは、相手を誘き出すための餌ってこと⁉」


 華子の激昂に、花子はそれでも静かにそこにいた。


「花子……ねぇ、なんとか言ってよ?」

『……』


 普段ならば、『なんとか』と言い、華子を茶化してくる花子だが、背を向けたまま何も言わない。


(本当に……わたしは、何かを誘き寄せるための餌なの……?)


 突如、周りがざわざわと鳴る。

 澄んだ空気が一気に冷え切り、華子は自分の腕を抱き締めた。


(なんか、来る……!)


 花子の背中越しに、それらは見えた。


「あれが……」

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