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四話 呼ぶ山7

 此処はどこなのだろうか。

 見回せば、懐かしい景色のように思う。

 緑に囲まれ、光が揺れ、風が靡き、水が流れ、土の香りがする。


(ここは、さっきの小川……?)


 一歩踏み出せば、砂利の音がまるで辺りに響くようだった。


(他に、音がない……?)


 それに気付けば、自分の呼吸音と鼓動が、やけに大きく感じた。

 小川の潺が、自らの音と相俟って、耳奥で反響するようだ。


(うっ……押し流されそう……)


 記憶を手繰り寄せる。

 でも、自らの音が、心地良いはずの自然のそれらが阻む。


(なぜなの?)


 耳を塞いでも、奥で聞こえているようで、一向に収まらない。

 耳鳴りのようだった。


(誰なの?)


 美優紀は、ハッとする。

 濁流のような音の中で微かにそれは聞こえていた。



 おいでよ……こっちへ……



 美優紀は、顔を上げた。

 微かな声に、耳を澄ませる。

 自分の鼓動が五月蠅い。

 呼吸が、邪魔をする。

 息を止めた。

 その分、鼓動が五月蠅かった。


(聞こえないわ……)


 潺が誰かの笑い声に聞こえてくる。

 いや、五月蠅かったのは、自分の鼓動や呼吸ではない。

 呼び声だ。それも、波のように迫ってくる。


(え……たくさん、いる)



 おいで……オイデ……

 オイデよ、おいで……

 こっちだよ……コッチ……


 サミシイよ……



 美優紀は、心の底に冷たい氷が滑り落ちてきたような感覚がした。


(寂しい……私、寂しいの?)


 体も冷えていく。

 手の指先が、どんどんと痺れていく。

 足に、何かが絡みつく。冷えていく自分の体よりもひんやりとしたものだった。


(え……?)


 視線を下に向ける。


「ひッ……!」


 頬と悲鳴が引き攣った。

 美優紀の足元には白い子どもがいた。だが、ただの子どもではない。頭がやけに大きい。それだけではなかった。

 顔が、なかった。

 だが、声だけは聞こえるのだ。



 さみしい……サミシイ……



 さみしいよ……



 恐怖ははじめだけだった。

 美優紀は、ゆっくりと、戸惑いながらも屈んだ。

 子どもが大きな頭を揺らしている。その頭に、美優紀はそっと触れた。

 冷たかった。


「……さ、さみしい、ね」


 途端、白い面がばッと美優紀を見た。

 その中央には大きな穴が開いていた。

 真っ黒い穴だった。



 さみシィ……苦しィ……



 小さな両の手が、美優紀の腕を強く掴んだ。


「い……いやあぁぁ……!」


 悲鳴は誰にも届くことなく、美優紀の意識は遠退いて行った。

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