四話 呼ぶ山6-3
『まあ、似たような者って言ったけど、うぅん、なんて表現すればいいかしら? チャンネル? いや、階層かな? それが違うの』
「階層?」
『そう。例えばね、何十階もある高層ビルがあるとするじゃない?』
「うん」
花子の言葉に、華子は高層ビルを想像する。
『ビルのように住所は一緒だけど階が違う、って考えてもらえばいいかしらね。ビルって、どの階も内装はほぼ一緒でしょ? 小学校もそうだし。でも、階が違えば、似たような場所だけど、いる人や机の並びが違う。ハナもあたしも、本来なら、別の階にいる存在なの』
「うん、まあ、大体想像できた」
『ビルと違うのは、その階層が時折とても曖昧になるってとこよ。だから、ハナみたいに見える人が出てくるし、あたし達もちょっかいが出せて楽しいってわけ』
「いや、最後の楽しいはおかしいでしょ!」
分かったような、分からないような、お化け達の方が得な空間作りをされているような、複雑な気分だった。
『まあ、あたし達はあたし達で、神様や他のそういった存在に厄介者扱いされて、喧嘩売られることも多いんだけどね』
「へっ?」
『神様は神様で、生きている者に手を焼いている時が多いし。どっかが得するようにはできないから、安心なさいってこと』
「あ、いや……そういうもん?」
『ただ、今回みたいなケースは、ちょっとね……』
花子が辺りをゆっくりと見回す。
緑と白と茶の世界。
「さっきから、鳥や蝉の鳴き声が……しない」
『人以外の生き物は、そういったことを弁えているからね』
風が流れ、木の葉の揺れる音だけが響く森の中。
不気味なはずなのに、妙に空気は澄んでいて、悪い者の気配はしない。それが返って、華子の不安を煽った。
『呼んどいて勝手ね』
ログハウスで呟いた言葉を、花子は憎々し気に再度口にした。
それは、直也も呟いていた。
それは一体どういう意味なのだろう。
ここはどう考えても人間の侵入を許してはいない。
「花子、呼ばれたって……?」
華子が訊けば、花子は僅かに表情を険しくする。
『本来ならば別の階にいる存在から呼ばれる、ということよ。しかも、元の世界に還すつもりがない者からね』
「えっ⁉ じゃあ、美優紀さんは……!」
『シッ』
花子の制止に、華子は思わず口を噤む。
前方から気配がする。恐怖ではない、しかし、圧のような感覚があった。
(なっ……なに?)
華子は前を見ていた。
(またあの香りだ)
辺りが香りに包まれたその時だった。
華子から五歩ほど離れたそこに、純白と新緑の光が集い、顕現する者がいた。
顔を伏せた男だった。着流し姿で、長い白髪を項当たりで緩く纏めている。顔を伏せてはいるが、背が高いことは遠目からでも分かる。
彼が生きている者ではないことは、恐らく華子でなくても分かることだが、彼が見えるかは別だ。
男は胸元に色白な右手を寄せ、華子と花子に軽く頭を垂れたまま口を開く。
『このような形でお呼び立てして、申し訳ない』
低めだが涼やかな声に、華子はドキッとし、顔を上げた彼に、思わず視線を逸らした。
見た目は照よりも若く、二十代後半くらいだろうか。白髪だから年配だと思っていたが、よく見れば、見える素肌は女性の肌よりも白く艶がある。
それに加えて、一瞬だけでも記憶に残る綺麗な顔立ちだ。細い眉に、目元はシュッとした切れ長で、鼻筋は通り、薄く形の良い唇は何かを決意しているかのようにキュッと結ばれている。




