四話 呼ぶ山3-3
「あ、ごめんごめん、ハナちゃん。僕も、実は見える側なんだよ。気付いているのかと思って……」
『照と違って、ハナは見える側だけど、かなぁり、ものすごぉく鈍いのよ』
「ちょっと! そんなに鈍いことを強調しなくてもいいじゃん!」
『だって、あたしが付いて来てるの、途中まで気付かなかったし』
「だからって、あんなとこで姿現さなくてもいいでしょうが! てか、急にトイレに行きたくなった原因も花子のせい⁉」
『それは、ハナが計画性なくガバガバとミルクティ飲んでたからでしょ? 他人のせいにしないでよ?』
「それはそうでしょうよ!」
『いや、分かってるなら、あたしのせいにしないで』
いつも通りの花子に、華子は条件反射で突っ込んだ。
それには、照も一瞬驚いていたが、すぐに笑った。
「花子さんにこんなツッコミ入れる子、初めて見たよ」
『でしょでしょ! 照だって、結構手厳しい方だったけど、ハナはもっとあたしに遠慮ないのよぉ』
しくしくと泣く真似をする花子に、照はまたくくくっと喉の奥を鳴らした。
ぽかんとしている華子に、花子は肩を竦めて、照を見る。
『照はね、あたしのいる小学校の卒業生なの。早い話が、ハナの先輩よ』
「へっ?」
「二十年以上前になるけどね」
照は、くくっと笑う。
「いやぁ、俺は優しかったと思うよ?」
『どこで記憶が改ざんされたのかなぁ? お手製のお札の効力を調べるために、クラスメイトの女の子をたぶらかして、あたしのいるトイレの入り口に貼って、閉じ込めやがったこと、未だに恨んでますわよ?』
それに今度は華子がギョッとしたが、当人である照はまたくくっと喉の奥を鳴らした。これは、照の癖らしい。
「そんなこともやったなぁ」
『ったく……あんの悪ガキが、今じゃ立派な父親かぁ』
「立派かどうかは分かんないけど、まあ、なんとか普通のふりをしているよ」
さっきまで可笑しそうに笑っていた照だったが、再び苦笑に戻る。
「俺の今までの行いのせいで、直也が危ない目にあってしまってるからさ……うん、やっぱ立派じゃないさ」
『あなたの息子に出会った時、気付くべきだったわ』
花子もまた先ほどまでの勢いを納めて、懐かしそうな、それでいて少しだけ愁いを帯びた表情で照を見詰めた。
「そうだ、二人にはまだきちんとお礼を言っていなかったね。美優紀や直也からいろいろと聞いたよ。ハナちゃん、花子さん、直也を助けてくれてありがとう」
「あっ、いえ!」
改まり、深々と頭を下げた照に、華子は慌てて手と首を横に振った。傍で見たら、滑稽な動きだっただろうが、照は真剣な面持ちだった。




