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四話 呼ぶ山3-1

 新緑に囲まれたそこは、夏真っ盛りの陽射しがまだまだ勢い付いている時刻だというのに涼しく、澄んだ空気に満ちていた。

 その中を蝉の鳴き声が大きく木霊している。サービスエリアでも聞こえていたはずだが、大勢の人達の中でのそれと違い、山の空気に振動するそれは、心地良いメロディのようだ。

 夏はやはりこうでなくては、と季節感というものをよく分かっていない華子でも、豪語したくなる雰囲気が、ここには溢れていた。


「ん~……! 緑の香りが気持ち良い!」


 車から降り、華子は伸びをし、肺いっぱいに森の力を吸い込んだ。


「ぼくも!」


 直也が華子の隣に並んで、真似をする。


「ほんと、思っていた以上に良い所ね」


 美優紀も感嘆の声を上げた。

 三人が見据えるそれは、大きな三角屋根に木漏れ日をキラキラと受ける窓が特徴的なログハウスだった。庭も広く、十人以上でバーベキューをしても余裕だろう。隅には木製のブランコがあり、小さい子どもが喜びそうだ。

 華子の胸は今までにないほど高鳴った。背後は相変わらず少し重かったが、そんなことも吹き飛ばすほどだった。


「ここに二泊もできるなんて、夢みたい!」

「近くに小川もあるみたいだから、後で行ってみましょ! 確か、釣り竿も近くで借りられたはず。ねぇ、照さん」


 車から荷物を下ろす照に華子が視線を向けると、どこか上の空のように「ああ、うん、そうだな」と答えていた。


「あ、わたし、荷物運び手伝いますよ」


 照は遠慮しかけたが、少しだけ考えて、「じゃ、お願いするよ」と言った。


「美優紀、ハナちゃんと荷物を部屋に運ぶから、直とちょっと先に小川へ行っててくれないか」

「えっ? ええ、分かったわ」


 美優紀は素直に頷き、息子の手を引く。


「直、小川はあっちみたい」

「えぇ、ぼくも手伝う! ハナ姉ちゃんと一緒がいいよ」

「もう、直はすっかりハナちゃんに夢中なんだから」


 美優紀が少々困っていると、照が直也の肩を抱き寄せ、耳に小声で何か呟いた。

 それを聞いた直也は、徐々に目を輝かせ、最後には大きく頷いた。


「うん! ぼく、がんばる!」

「よし! 頼んだぞ」

「任せといて!」


 そう言って駆け出した直也に、美優紀は慌ててついて行く。


「ちょっと待ちなさい! 離れるのは危ないわ!」

「お母さん、はやく!」


 緑の音の中に遠ざかる二人の背と声に、華子は唖然としていた。


「さっ、運んじゃおうか」

「へっ、あ、はい」


 自分と直也の荷物を持った華子は、首を傾げた。


「直君に、なんて言ったんです?」

「あぁ、それは、後のお楽しみだよ」


 悪戯っ子のようにクスっと笑った照に、華子はますます首を傾げるのだった。

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