四話 呼ぶ山1-1
夏の青々とした空と新緑が、車窓の向こう側で風のように過ぎていく。
それを見ているだけでも、華子は楽しかったが、今日はそれだけではない。
後部座席の隣に座る飯島直也が、キラキラした表情で訊いてくる。
「ハナ姉ちゃん! たけのこときのこ、どっちがいい?」
「わたしは、たけのこかなぁ」
「うん! やっぱりたけのこだよね!」
華子の同意に、満足げの直也は、助手席へと投げかける。
「ほらぁ、ハナ姉ちゃんもたけのこだってぇ」
直也は、二か月ほど前に知り合った少年だ。通学路はずっと同じだったようだが、ある事件がキッカケとなり、仲良くなった。
親しくなったのは、彼だけはない。
息子の嬉しそうな答えに、助手席に座る美優紀が大げさに眉を下げた。
「えぇ、ママはきのこ派よ」
「きのこも美味しいですね」
「でしょ~」
先まで八の字だった美優紀の眉が、一児の母とは思えないほどふっくらつやつやした頬と共にくっと上がった。
これは夢なのではないか。返事をしながら、華子は今自分に起こっていることを信じ切れずにもいた。
望まない自分の能力の影響もあり、華子はずっと孤独だった。
友達とその家族とドライブなんて、華子にとって生まれて初めての経験だ。
いや、そもそも夏休み友人と約束をすることが初めてだった。
今年は梅雨自体も長く、夏の到来をなかなか感じられなかった。が、華子は美優紀から夏休みの計画の話を聞いてから夏空そのもので、ずっと心待ちにしていたのだ。
(これが、遠足前にワクワクして眠れないって感覚だったんだ)
昨日の夜は、実際眠れなかった。おかげで少し眠たいけれど、それ以上に嬉しさで心が満たされている。
お菓子をやり取りしている母子を眺めていると、運転席から声がかかる。
「ハナちゃん、トイレに行きたくなったり、酔ったりしたら遠慮なく言ってね。サービスエリアに寄るからさ」
「あっ、ありがとうございます。わ、わたし、あまり乗り物酔いはしない方なので、……だ、大丈夫だと思います」
直也の父親の飯島照が、華子を気にかけてくれる。
他の家族の父親と接する機会など殆どなかった華子は、少しだけ緊張していた。
美優紀が常に照のことを気にかけ、「ガムは? 飲み物いる?」と声をかけている。直は、「お父さん、この前ハナ姉ちゃんとパズルゲームしてね」と話しかけていた。
照は、それに「うん、ありがとう。そうかぁ、ハナちゃんは強いんだね。直も負けてられないよなぁ、それは」と笑っていた。




