三話 音楽室のピアノ14ー2
『君のことは華子から時々聞くよ、霖之助君』
花子は、沙理奈を改め、ピアノ同様に全身が透けているにも関わらず、その表情は生き生きとしているように見えた。
いや、それよりも――
(橘が俺のことを話してた?)
むず痒いような気持ちになっていると、華子が慌てて言う。
「ちょっ! 花子! そんな話してないじゃん! いつわたしが吾妻君のこと話したのよ? 何時何分何秒何曜日⁉」
華子の猛烈な反論に、霖之助は人知れず肩を落とす。
そんなに否定しなくても、『少し話していたかも』くらいは言ってくれてもいいではないか。
(なんでこんな一喜一憂するんだ……俺)
『霖之助君、これは大変だね』
「へ?」
また頭の中で声がした。
花子が苦笑している。
華子が真っ赤な顔で霖之助と花子とピアノを忙しなく見ている。まるで小動物のようだった。
ピアノがおかしそうに笑っている。
『ハナって面白い!』
「ふつーです、ふつー! もう……それより、ピアノちゃんは、これからどうするの?」
『しばらくはここにいるよ。ピアノは、うちの大事な七不思議の一つを担ってもらうんだから』
『花子さん……私でほんとにいいの?』
花子の答えに、笑っていたピアノが困惑気味に言った。
花子は『もちろん』と返す。
『ピアノが成仏したいならそれでいいし、成仏した方が本当はいいんだけど、できそう?』
『いや……まだできなさそうだけど……さっき、お友達にあんなことしちゃったし、いつ自分が暴走するか、分かんないから……自分がこわい』
またさっきみたいなことが起こってしまうことを、ピアノは懸念していた。あれは、自分の感情が高まった時、意志ではどうにもならないものなのだろう。
が、花子は優しく首を横に振る。
『大丈夫。此処は安全よ』
「花子がいるから大丈夫」
二人のはなこが、ピアノに語りかけた。
漸くピアノがホッとしたような表情を見せた。
『ありがとう』
「七不思議ってことは、夜中に鳴るピアノになるってこと?」
『そうそう。前の子が引退しちゃって、どうしようかなって思ってたとこだったから、本当に助かったわ』
「演奏も上手で、こんなに可愛い女の子だったらあんまり怖くないかも。ねっ、吾妻君」
「へっ? あ、ああ」
急に話を振られ、霖之助は少し慌てたが、頷いた。
確かに知り合いというだけでも、怖さが軽減される。それに加えて、素晴らしい演奏となれば、聴いていたいという気持ちになっても不思議ではない。
でも、本当にそれだけか、と霖之助が思っていると、ピアノが徐に三人に背を向ける。
『あ、私、階段から落ちて、首が折れちゃったから』
首だけを梟のようにぐるりと華子と霖之助に向ける。
『実は、こんな特技が』
「怖い怖い怖い怖い!」
人間二人の悲鳴が重なった。
何も知らず聴き入っていて、急にこんな振り向き方をされたら――想像しただけでゾッとする。
それに、ピアノはすでにお化けとして人を驚かすことに若干の喜びを感じるようにもなってきているのだろう。首を百八十度回したまま、ゾンビの真似をして華子へ寄っていた。
華子は、「いやぁ! それでこっち来ないでぇ!」と喚いている。
花子がゲラゲラと笑った。ピアノが『もう少し回るんだよ』と首を回せば、華子はさらに「せっかくの可愛さがぁ」と嘆いていた。
霖之助も、笑った。自然と笑いが込み上げてきたのは、久しぶりのような気がした。
『さて、ちょっと手荒かった部分もあるけど、それぞれの自己紹介が終わったとこだし、今日は何して遊ぶ?』
花子の赤いワンピースがふわりと揺れた。




