表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/120

三話 音楽室のピアノ14-1

 沙理奈が話し終える。透けているせいもあり、沙理奈の顔色は全く分からないが、彼女の感じた恐怖は、空間に深い闇を落としていた。

 はなこは剣呑な表情を崩さなかった。反対に、華子は怯え切った様子だった。


「は、花子……上半身だけの女の子って……?」

『ハナ、しばらくは夕方から線路や歩道橋の付近に近付かないこと』

「あぁ、やっぱりですかぁ!」


 泣きそうな顔で頭を抱えた華子は、ハッと我に返ったようだった。

 横にいる霖之助は、華子のそんな様子を見詰めていた。


「あっ、えっ……えっ⁉ ちょっと待って! 冷静になったら、今ここに吾妻君がいることがまずおかしいよね⁉」

『あんたのどこが冷静なのよ、ハナ』

「冷静になれるわけないでしょ!」


 さっきの闇が一瞬にして吹き飛ばされる。


『さっきと言ってることが違うじゃないのよ! まっ、途中からピアノちゃんに取り憑かれていたから、現状に混乱するのは分かるけどさ』

『本当にごめんなさい。ハナ、さん』

「あっ、ハナでいいよ。沙理奈ちゃんって呼んでいい?」


 霖之助は、驚いた。


(橘、こんなに積極的に人に話しかけるんだ。あ、いや……戸塚はもう人じゃないのか……)


 沙理奈も、華子の反応に戸惑っていたが、静かに首を横に振った。


『花子さんがさっき呼んでくれた、ピアノでお願いします』

「分かった。ピアノちゃん、よろしくね」


 と、言ったところで、華子は再び慌てふためいた。


「って! のんびり自己紹介してる場合じゃない! あ、吾妻君、なんでここに?」

「なんでって、……えっと……」


 訊かれたところで、正直に答え難い。


 偶々だったが、華子の後ろ姿が見えて、追いかけてきた――と。


『ったく、相変わらず忙しないわね、ハナは。少年が此処に入れた理由は、あたしもイマイチ分かんないけど、ピアノちゃんの少年への気持ちが強かったのかもね。普段だったら、ハナが入ってくる時、他の人間は入れないようにしているからさ』

「あ、そういうこと」


(あ、そうだったんだ……)


 納得している華子の横で、霖之助は自分の意志でない可能性を挙げられ、正直腑に落ちなかった。


 だって、ここへ入ってきた理由は、やはり華子が――



『今はそういうことにしておきなさいな』



「え?」


 不意に頭の中へ流れ込んできた声に、霖之助は驚いた。

 声の主を見やれば、微かに口端を上げられ、終わりだった。


「てか、吾妻君にも花子が見えるし、声が聞こえる……?」

『言ったでしょ? ハナが入ってくる時だけ、ここは特別な空間なの。それに、この少年とも波長は合っちゃうみたいね』

「波長?」

『第六感が強いからってすべてが見えるわけじゃないのよ。波長が合わなきゃ、意味はないの。ハナみたいに、強いし、合うし、だと大変だけどね』

「うぅ……」


 項垂れる華子に、はなこは『まあ、あたしからしたら完璧だけど』と笑った。


『そういえば、今さらだけど自己紹介がまだだった。あたしは、花子。説明はいる?』

「い、いや……あの、花子さん、だよな?」


 花子は、『ええ。やっぱあたしって有名人』と嬉しそうに笑った。


『君は?』

「あ、はい。吾妻霖之助です」


 霖之助が名乗れば、花子の視線がこちらを頭の天辺から爪先までを一度往復した。

 その後、ここのボスである少女は、ふふっと笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ