三話 音楽室のピアノ6-3
「直也と仲良くしてくれて、本当にありがとう」
「いっ、いえ! そんな……わたしの方こそ直君に仲良くしてもらってます!」
「小学三年生の男の子と話を合わせるのは、正直大変でしょ?」
苦笑する美優紀に、華子はやはり首を横に振る。
「楽しいです。わたし、誰かと一緒に学校に行ったり、こんな風に友達の家に呼ばれることもなくって……だから、直君のおかげで、楽しいんです、ほんとに」
「華ちゃんは優しいのね」
美優紀の穏やかな笑みが、どこか悲しげにも見えた。
「そういえば、今日は夏休みの計画をするためだったわね。ねぇ、華ちゃん。よかったら、避暑地へ行ってみない?」
「避暑地?」
「ええ。私の友人がね、ペンションを経営してて、遊びに来ないかって言ってくれてるの。この夏休み、直也を連れて行こうと思っていたのよ。華ちゃんも一緒に行きましょうよ!」
思わぬ誘いに、華子はまた戸惑った。
「い、いいんですか? わたしまで」
「当たり前でしょ!」
そこへ直也が急いでトイレから戻ってきた。
「あぁ! お母さん! 僕のいない間に、華子お姉ちゃんと仲良くしちゃダメ!」
「なんでよぉ? 私だって、華ちゃんと話したいんですぅ」
「えぇ⁉ 華子お姉ちゃんは僕の友達だよ!」
「私のお友達でもあるんですぅ」
「ずるいぃ!」
(これは、夢かな?)
華子は、これが自分の身に起きていることとは、到底思えなかった。
みんなが友達と夏休みの計画を立てている中、自分は誰とも話すこともなく宿題の計画を練っていた。少しでもみんなの話に聞き耳を立てれば、嫌な顔をされているように思っていた。
友人とどこかへ遊びに行くなんて、ましてや悪口以外で自分のことを話す他人がいるなど、自分には縁のないことだと華子は信じていた。
でも、目の前で起こっていることは、夢ではないのだ。
どう反応していいのか分からず、硬直している華子に、美優紀は言う。
「夏の計画は、私に任せてもらえないかしら?」
「えっ?」
「お母さん、どんな計画?」
「ふふっ、今は内緒」
「教えてよぉ!」
直也と美優紀の会話に、華子はやっと静かに笑った。
不意に、彼女の顔が浮かぶ。
(会いに行こう)
華子のこの後の予定が、決まったのだった。




