三話 音楽室のピアノ6-1
華子は緊張していた。
友人の家に呼ばれるだけでも戸惑っているのに、目の前にある家が――
「直也君のお家って、……大きいんだね」
この辺りで一軒家は珍しくないが、その中でもひと際目立つ家だった。家を囲む塀は白く、庭も手入れがしっかりとされ、夏の花が雨の中綺麗に咲き誇っていた。
玄関も広く、しかし無駄な物は一つもない。
おろおろとしている華子を引っ張り、直也が大声で言う。
「お母さん! ただいまぁ!」
「おかえり、直也。雨、大丈夫だった? あらぁ! 華子ちゃん、いらっしゃい!」
「あっ、お、お邪魔致します」
ガチガチに固まった華子の体と挨拶に、直也の母親の美優紀は微笑みながら、「どうぞ、ほら、上がって」と言った。
美優紀とは、入院していた時に病院で会っただけだったが、まるで昨日も会ったかのような雰囲気だ。そのおかげで、華子の緊張も少し解けた。
通されたリビングはきちんと片付けれ、華子の家のリビングのように様々な雑誌が積み上がってはいない。華子の母親が、雑誌好きで仕事に必要なのはあるのだが、自分の家と違う空間を見るのは、どこかおかしな感覚がした。
画面の大きな液晶テレビには埃一つなく、まるで鏡のようだ。
広い庭も、リビングの大きな窓から一望できる。天気が悪くなければ、陽の光が部屋を満たすのだろうと想像した。
「あれから体調はどう?」
差し出されたタオルでハッと我に返った華子は、他人の家の中をきょろきょろと見回していたことを恥じた。
「えっ、あ、ありがとうございます。もう大丈夫です」
華子がたどたどしくも元気に答えれば、美優紀はホッと胸を撫で下ろした。
「良かった。本当にありがとうね」
「いっいえいえ……! わたしは何も……」
「華子お姉ちゃん! こっち、座って! えっと、それから、お母さん、ジュースある?」
ランドセルとタオルをソファに置いた直也は、華子の腕を引っ張り、家族が囲むのであろうテーブルの椅子へと導いたかと思えば、冷蔵庫へと向かった。
どうやら彼自身がおもてなしをしたいようだった。
それを見た美優紀は、息子の両肩を優しく掴んで、華子の方へと向ける。
「お母さんがお菓子とお茶を用意するから、直は華子ちゃんといっぱいお話しして。直ったらね、帰っても華子ちゃんのことばっかり言うのよ」
「おっ、お母さん!」
くすくすと笑って言った美優紀を、直也は顔を真っ赤にして制した。美優紀は「はいはい」と言い、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
華子もまた顔を赤くした。
誰かが自分のいないところで自分のことを話している。それも、陰口ではないことを。
嬉しいような、恥ずかしいような、擽ったい感覚がじんわりと心に灯る。
立ちっ放しの華子に、直也は再び「お姉ちゃん、ほらぁ」と椅子に座るよう勧めた。
「う、うん、ありがとう」
漸く座った客人に、直也は満面の笑みだった。




