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三話 音楽室のピアノ2

 華子は、不思議な気持ちだった。

 横を歩く飯島直也に視線を向ける。彼とは、ひと月前にあった呪われた彫刻の件に巻き込まれたことをキッカケに仲良くなった。

 朝の通学時間は大体同じで、待ち合わせていなくても顔を合わせるから、自然と挨拶をして一緒に歩き出す。

 直也は今日も生き生きとしていた。


「ねぇ、華子お姉ちゃん、中学は楽しい?」

「えっ? うぅん、楽しい……かな? 友達がいれば」

「そっかぁ、僕もはやく大きくなりたいなぁ」


 会話は噛み合っていないかもしれない。

 けれど、誰かと共に学校へ行けることが、先日幽霊の宗像が家まで送ってくれた時より不思議な感覚だった。


(傍から見れば、友達なのかな? それとも、姉弟みたいな感じなのかな?)


 直也が見上げてくる。


「華子お姉ちゃんは、夏休み、どこか行く?」

「え? 夏休み? あっ、そっか……」


 もう夏休みか。

 遊びに行く友達はいないし、家族旅行も精々母方の田舎へ行くくらいだ。それでも、華子とっては少し楽しみではある。


(おじいちゃんとおばあちゃんに久々に会えるなぁ)


 夏休みという単語で、華子は休みの楽しみを思い出した。

 直也には、夏休みにしたいことがいっぱいあるそうだ。

 が、それを最後まで聞く前に、「また明日ね」の時間だった。

 いつもなら直也も「またね」と元気良く言うのだが、今日は違った。


「夏休み、華子お姉ちゃんと学校に行けないのは寂しいなぁ」


 直也の素直なその言葉に、華子は一瞬止まった。

 それからじわじわと嬉しさが込み上げる。


 こんな自分と一緒に学校に行くことを楽しみにしてくれているのだと思うと――


「直也君、夏休みに入ったら、一緒にどっか遊びに行こっか?」


 思わず言った言葉だったが、本心だった。


「えっ⁉ いいの?」

「もちろん。一緒に計画立てよ!」

「うん!」

「いつ立てよっか?」

「じゃっ、今日!」

「今日ね、いいよ。じゃあ、四時でもいいかな?」

「うん!」


 直也が、「約束!」と小指を差し出した。華子は直也の小指に、自分のそれを絡める。


「指切りげんま、嘘吐いたら針千本飲まぁす。指切った!」


 一緒に歌い上げ、互いに「また」と手を振った。

 約束なんて、いつ振りだろう。

 夏休みが待ち遠しく思うなんて、初めてに等しい。

 華子はワクワクした気持ちを心に留めて、独りぼっちの中学校へ向かった。

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