二話 呪縛3-3
自分の記憶だったはずなのに、花子の口調はまるで他人のそれのようだった。
「じゃあ、花子は……以前の『花子さん』から花子を受け継いだ?」
『さあ?』
「さあ、って……」
彼女は途切れ途切れそれらを思い出しながらも、しかしあまり興味がなさそうに答えた。
あれだけ、壮絶で、孤独な過去だったはずなのに――
周囲の掌返しが、幼い心にどれほどの傷を与えたのか、想像に難くないが、それでも花子が負い、失ったものは、花子のみが抱えることになるのだろう。
周囲はその後、どんな感情を抱き、時を生きていたのだろう。まだ存命の者もいるかもしれない。
いや、それよりも、当時誰も花子を捜さなかったのだろうか。心配しなかったのだろうか。
心配するだろう、普通は。捜すだろう、親ならば。必死で捜しているはずだ。
しかし、花子の周りには、世間一般でいう普通は、生きていた時からなかった。
誰か、一人でもいれば良かったのに――花子を心配してくれる誰かが一人でもいれば、違っていたのかもしれなかったのに、それは悉く花子を裏切ったのだ。
華子は、腹が立ってきた。沸々と花子が感じた怒りを、華子は覚えた。
『忘れるっていいものよ』
「え?」
不意に花子が言い、華子の怒りは削がれた。首を傾げ、友人を見れば、彼女の血の気のない横顔は、柔らかかった。
『例え、どこかで擦れ違ったとしても、あたしはもう周りの人間の顔は憶えていない。両親の顔でさえね』
そう、彼女は『トイレの花子さん』になり、真の孤独と破壊的な力を得たのだ。
憤怒が力となり、憎悪を増幅させた。
しかし、目の前にいる友人は、やはりどこか他人事で、話に聞いた憎悪と憤怒の少女の面影はない。
「今でも憎いと思わないの?」
『いつまでもそんなの抱えてられるほど、暇じゃない。生きていた時よりも結構忙しいのよ、あたし』
少し肩を竦め、彼女は笑った。
その表情に見栄や諦めはなく、至極当然だと表情が告げている。
――と。
『花子さぁん! 助けてくださぁい!』
『ほら来た』
苦笑交じりに、花子はトイレの入り口を見た。
華子は、花子の動きだけを見詰めていた。
花子の背を追っていた視界に、ものすごい形相のサラリーマンの霊が入ってくる。
「ッ……きゃああ⁉」
『いや、だから、慣れてってば』
「なっ、慣れるかぁ!」
花子とはまた違い、青白い顔はいかにも幽霊ですと己の存在を物語っていた。それがまた焦りからか恐ろしい表情に変わり果てている。
『あっ、この子のことは気にしないで。何があったか教えて』
華子の絶叫に驚いていた霊だったが、花子が促せば、どこかホッとしたように我に返った。
『変な奴が、この小学校に向かってきているみたいなのです!』
『変な奴?』
霊やお化けに変な奴と呼ばれる存在とは、どんなものなのだろう。
華子も興味が湧いた。
が、花子は息を吐き、華子に向き直る。




