二話 呪縛2-2
誰かが誰かに共感し、誰かから誰かに伝わって、気付けば、自分は独りになっていた。
それだけではない。以前は珍しいもの見たさで「やってみて」と言っていた同級生達が、話しかけてこなくなっていた。偶に近寄ってきたかと思えば、嘲笑するために「やって見せろ」と言葉を変えていた。
それは、両親でさえそうだった。同級生の親達は、自身の子ども達に何か害が及ぶのではないかと、学校に訴えてきた。両親は体面を優先した。自分達の子どもは、白い目で見られ、後ろ指を指される存在なのだと認めたくなかった。だから、すべてを黙っていろ、我慢をしろ、おまえが悪いのだから、と言い続けた。
気付けば、家でも学校でも、いつも独り――
休み時間、周りは仲良くおしゃべりをして、ボール遊びをし、ゴム飛びや鬼ごっこをする。
自分はいつもそれを見ているだけだった。ボールはぶつけられるためにあり、鬼ごっこにたまに呼ばれれば、本当の鬼扱いだ。誰かを捕まえれば、その子は大げさに倒れ、死ぬと豪語した。
殺した――いつか、こいつは人を殺す。
鬼ごっこに誘った子らは、嘲笑った。何も言い返しはしなかったが、彼らの言葉の裏には、どこか怖れのようなものが滲んでいるのを感じていた。
あたしは、いつか人を殺してしまう――
自分自身も、いつしかそう思うようになっていた。
だからこそ、自らの力を隠そうとした。すでに、それは無意味なことだと知っていたが、大人しく、目立たないように、自分の存在を殺していた。
あたしは、人に触れてはいけない。
そう思えば思うほど、何かが自分の中で膨らんでいくのが分かった。
あたしが悪い。こんな力を持っている自分が――
思い込めば思い込むほど、他の人達に見えない者達がよく見えるようになった。
くるしい……つらい……
さみしい、かなしい……
ゆるさない……あいつがわるい……あいつらが……
ころしてやる
ゼッタイにゆるさない……
しにたくなかった……
しにたくない――
「しにたい」
ふと、呟いた。
自分を殺し続けていた。
すべてを消したい。そうしなければならないと思った。
心の内側で、何かが蠢いていた。自分ではない自分のような――何か。
その時には、自分の中のその何かが弾け飛びそうなほど膨らんでいた。
それが怒りなのだと自覚したのは、いつものように同級生の男子から勢い良くボールをぶつけられた時だった。
「ッ……⁉」
「あっちへ行け! バケモノ!」
はじめてバケモノと呼ばれた。
ボールが当たった背中はじんじんと痛んだ。それ以上に、痛む心。
あれだけ殺し続けた心だったのに、もう痛みなど感じないと思っていたはずなのに……
「ッ――うるさい……」
「え?」
自分の声とは思えなかった。
獣のような声が、鼓膜の奥で響く。
「おまえなんか……おまえなんかぁ……!」
唸り声が金切り声になり、転がったボールが誰も触れていないのに男子を目がけて、さっきよりも速く飛ぶ。勢いづいたそれは、男子の顔面に鈍い音を立てて当たった。
噴き出した鼻血が、白目を剥いて倒れた男子の顔面を赤く染めた。
「わあぁ!」
「バケモノ!」
「こっち来るな!」
周りにいた同級生や他の児童が、逃げ出した。
それが癪に障った。
うるさい、うるさい……五月蠅い!
ボールだけではなく、傍にあった遊具を乱暴に揺らし、砂場の砂や落ち葉、鋭い木の枝を巻き上げて、逃げ惑う子ども達に叩きつけた。
これが、あたしの痛みだ!
だが、まだそれだけでは足りない。
もっと、もっと苦しめばいい。もっと泣けばいい。
あたしが殺してきた心を――あたしの痛みをもっと知ればいい!
憤怒が力となった。憎悪がさらなる憤怒を齎した。
内側に隠していたはずの力が、何もかもを吹き飛ばそうとしていた。
我に返った時には、お気に入りの赤いワンピースは汚れ、周りには恐れ戦き泣いている子ども達と、恐怖に引き攣った顔で児童を助ける先生達の姿があった。
しかし、やはり誰も自分には近寄っては来なかった。




