表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/120

二話 呪縛2-2

 誰かが誰かに共感し、誰かから誰かに伝わって、気付けば、自分は独りになっていた。

 それだけではない。以前は珍しいもの見たさで「やってみて」と言っていた同級生達が、話しかけてこなくなっていた。偶に近寄ってきたかと思えば、嘲笑するために「やって見せろ」と言葉を変えていた。

 それは、両親でさえそうだった。同級生の親達は、自身の子ども達に何か害が及ぶのではないかと、学校に訴えてきた。両親は体面を優先した。自分達の子どもは、白い目で見られ、後ろ指を指される存在なのだと認めたくなかった。だから、すべてを黙っていろ、我慢をしろ、おまえが悪いのだから、と言い続けた。


 気付けば、家でも学校でも、いつも独り――


 休み時間、周りは仲良くおしゃべりをして、ボール遊びをし、ゴム飛びや鬼ごっこをする。

 自分はいつもそれを見ているだけだった。ボールはぶつけられるためにあり、鬼ごっこにたまに呼ばれれば、本当の鬼扱いだ。誰かを捕まえれば、その子は大げさに倒れ、死ぬと豪語した。


 殺した――いつか、こいつは人を殺す。


 鬼ごっこに誘った子らは、嘲笑った。何も言い返しはしなかったが、彼らの言葉の裏には、どこか怖れのようなものが滲んでいるのを感じていた。


 あたしは、いつか人を殺してしまう――


 自分自身も、いつしかそう思うようになっていた。

 だからこそ、自らの力を隠そうとした。すでに、それは無意味なことだと知っていたが、大人しく、目立たないように、自分の存在を殺していた。


 あたしは、人に触れてはいけない。


 そう思えば思うほど、何かが自分の中で膨らんでいくのが分かった。


 あたしが悪い。こんな力を持っている自分が――


 思い込めば思い込むほど、他の人達に見えない者達がよく見えるようになった。


 くるしい……つらい……

 さみしい、かなしい……

 ゆるさない……あいつがわるい……あいつらが……

 ころしてやる

 ゼッタイにゆるさない……

 しにたくなかった……

 しにたくない――


「しにたい」


 ふと、呟いた。

 自分を殺し続けていた。

 すべてを消したい。そうしなければならないと思った。

 心の内側で、何かが蠢いていた。自分ではない自分のような――何か。

 その時には、自分の中のその何かが弾け飛びそうなほど膨らんでいた。

 それが怒りなのだと自覚したのは、いつものように同級生の男子から勢い良くボールをぶつけられた時だった。


「ッ……⁉」

「あっちへ行け! バケモノ!」


 はじめてバケモノと呼ばれた。

 ボールが当たった背中はじんじんと痛んだ。それ以上に、痛む心。

 あれだけ殺し続けた心だったのに、もう痛みなど感じないと思っていたはずなのに……


「ッ――うるさい……」

「え?」


 自分の声とは思えなかった。

 獣のような声が、鼓膜の奥で響く。


「おまえなんか……おまえなんかぁ……!」


 唸り声が金切り声になり、転がったボールが誰も触れていないのに男子を目がけて、さっきよりも速く飛ぶ。勢いづいたそれは、男子の顔面に鈍い音を立てて当たった。

 噴き出した鼻血が、白目を剥いて倒れた男子の顔面を赤く染めた。


「わあぁ!」

「バケモノ!」

「こっち来るな!」


 周りにいた同級生や他の児童が、逃げ出した。

 それが癪に障った。


 うるさい、うるさい……五月蠅い!


 ボールだけではなく、傍にあった遊具を乱暴に揺らし、砂場の砂や落ち葉、鋭い木の枝を巻き上げて、逃げ惑う子ども達に叩きつけた。


 これが、あたしの痛みだ!


 だが、まだそれだけでは足りない。

 もっと、もっと苦しめばいい。もっと泣けばいい。


 あたしが殺してきた心を――あたしの痛みをもっと知ればいい!


 憤怒が力となった。憎悪がさらなる憤怒を齎した。

 内側に隠していたはずの力が、何もかもを吹き飛ばそうとしていた。

 我に返った時には、お気に入りの赤いワンピースは汚れ、周りには恐れ戦き泣いている子ども達と、恐怖に引き攣った顔で児童を助ける先生達の姿があった。

 しかし、やはり誰も自分には近寄っては来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ