一話 呪われた彫刻1-2
「ちょ、ちょっと……はやく出てきてよ。こんなとこで一人待たされんの、怖いんですけどぉ?」
電気を点けるわけにもいかない。一度電気を点けたことがあり、ちょっとした騒ぎになったことがあるのだ。
誰もいない三階の女子トイレの電気が点いた、幽霊の仕業か。
子ども達の間でしばらく噂されたことを、友人は喜んでいた。
が、幽霊に電気を点けることはできない。だって、体がないのだから。
物に触れるのは、実体のあるものだけだ。華子はそれを知っている。
ここの管轄者には、実体がないのだ。が、華子には生きている者達と同じように彼女が見える。
それが、華子の能力だった。
またしばらく無音が続いた。
「ちょっ、ちょっと! いい加減出てきてよ! 花子!」
慣れていることと、怖くないことは違う。
誰がここにいるか分かっていても、自ら奥まで行こうとは思えない。
そう、だってここにいるのは――
「花子!」
『なによ?』
「ぎゃあああぁ⁉」
不意に背後から返事が聞こえ、華子は絶叫した。
『ちょっ! ちょっと! あんまり大きな声出さないでよ。さすがに、近所迷惑でしょ?』
「急に後ろから出てこられたら誰でもこうなるわぁ!」
勢いよく振り向けば、長い黒髪に、赤いワンピースの少女が、幼いその顔に呆れを乗せ、腰に手を当てて立っていた。態度はでかいが、その姿は微かに透けている。
そう、この少女が様々な学校で語り継がれている、トイレの花子さんだ。そして、華子の友人でもある。
幽霊を友人と呼べる時点で、世間一般の普通とはかけ離れてしまったと華子自身も思うが、本当に友人と呼べるのは、花子だけだった。
『ほんと、いつまで経っても驚いてくれるのね、ハナは』
花子は、華子のことをハナと呼ぶ。こんな風にニックネームを付けてもらったのも、花子が初めてだった。
花子はそんな友人を見詰めた。
歳を取らない、いや取れない少女の幽霊は小さく溜息を吐き、華子の横に腰をかけた。
まさに透き通っている白い頬にかかった髪を、花子は耳にかけた。その姿は大人びている。が、僅かに疲弊しているようにも見えた。
(幽霊が疲れるなんて、ちょっと変だけど……)
でも、いつもと様子が違った。
「珍しいね。花子がここを離れるなんて。何かあったの?」
華子が問えば、花子が肩を竦める。
『まあ、ちょっとね』
「何? 気になるじゃない?」
ただの興味だった。
しかし、これがいつも自分の首を絞めることになると華子が気付くのは、後になってからだ。
そして、今回も例に漏れなかった――
『厄介なものがうちに来たのよ』
「厄介なもの?」
花子のふっくらした、しかし色のない唇が歪む。
『ええ……呪われた彫刻がね』




