二話 呪縛1-2
その間にも恐怖の歓迎を受けたが、華子は驚きながらもどこかでホッとしている自分に気付いていた。
三階の女子トイレが、華子の目的地だ。
今日も、彼女はそこにいた。
「みんな、元気そうね」
『元気? あたし達に元気も何もないけど?』
赤い万年ワンピースが揺れる。
トイレの花子さん――華子が、卒業した小学校に忍び込む理由だ。
「じゃあ、なんて言えばいいのよ?」
花子の相変わらずの皮肉に、華子も慣れた調子で問うた。
『さあ? そんなの自分で考えなさいよ』
「ったく……そんなんじゃ友達なくすわよ?」
『こんなことでなくすような友達は持ってないわ』
肩を竦めて笑う花子に、華子も思わず笑ってしまった。
「そうね、こんなことでへこたれてたら、花子の友達なんてやってらんない」
『でしょ?』
低めの手洗い場に腰掛けた花子が、隣に座るように促してくる。
華子は、はいはいとそこに座った。
「あれはどう?」
あれというのは、呪われた彫刻だ。
『大人しくさせてるわ。ちょっと手伝ってくれる奴も来たし』
「えっ? 誰?」
『あっ、ハナはまだ会ってなかったっけ? そっか、あいつが来たのは、三十年ぶりくらいだったかな』
「さっ、三十年前⁉」
花子との時間の感覚が違うことを、華子は改めて感じる。
花子にとっての三十年は、三年前くらいなのだろう。
『互いに変わらないと、いつ振りかも忘れちゃうわね』
「でしょうね……で、そのあいつって誰?」
『まあ、いつか紹介するわよ』
「わたしが生きている間にしてね」
気付いたらまた三十年後になりそうで、華子はそう言った。
『そっちはどうなの?』
花子は、子どものように(見た目は完全に子どもだが)、足をぶらぶらと揺らしながら言った。
「どうって?」
『一か月くらい来なかったじゃん。何か変わったことはあった?』
「別に……何も」
本当に変わったことはなかった。
毎回そうだ。さすがに毎日夜家を抜けられないから、両親が残業の日を狙って、華子はここへ来ていた。華子にとっては、友達に会える唯一の日でもある。
けれど、花子に近況報告をするような出来事があることは稀だ。寧ろ何かある時は、日を空けずにここに来ることが多かった。
いつもなら、『ふぅん』と苦笑するだけの花子だが、今回は違った。
『本当に?』
ニヤニヤしながら、足をまたぶらぶらとさせる。
まるで、何かを知っているかのような様子だ。
「な、なによ?」
『あたしの情報網をなめんなよ?』
「だっ、だからなに?」
本当に何もない。
華子自身はそう思っていた。
が、華子よりも、花子の方が知っていることがある。
『彼氏が二人もできたみたいじゃん』
「……は?」
思わぬ言葉に、華子は固まった。
花子を見ると、にやぁと口端を上げた。この顔を見ると、彼女もお化けなのだと不気味に思う。
いや、寧ろ人間らしいのかもしれない。




