二話 呪縛1-1
学校には、数多くの怪談話がある。
音楽室のベートーヴェンの肖像画の目が動くや、理科室の人体模型が夜な夜な校内を散歩するなど、誰もが一度は聞いたことのある怖い話がある。
その中でも、彼女の知名度は一番だ。
トイレの花子さん――
彼女は、今もあなたの学校にいる……かもしれない。
夜の学校に忍び込むのは、何度やっても慣れない。
まず、人目を気にする。今の学校はセキュリティが厳しい。不審者による事件が多いからだ。見付かったら、注意だけでは済まないだろう。
が、まだ橘華子は中学二年生だった。
懐かしくて、つい――と見付かった時の言い訳は考えていた。かなり怒られるだろうけれども、それだけで済むだろうと、華子は若干諦めている。
(まあ、怒るんだったら、裏のフェンスを直してからにしてほしいかな)
華子は、フェンスの裂け目に自分の体を滑り込ませながら思った。
それに、事件が本当に起こってからでは遅い。最近は物騒だ。
怪談よりも、お化けよりも怖いもの。それは、生きている人間だ。
子どもを守れるのは、他の誰でもない。身近にいる大人になった人間だけなのだから。
しかし、ここが塞がれてしまうのは、正直困る。
(ここが塞がれても、きっとまたどっかから入れるようにしてくれそうだけど)
華子は、フェンスの切れ目から裏庭に忍び込み、いつも開いている窓へと向かう。これは、生きている人間にはどうしようもないかもしれない。
「誰か知らないけど、いつもありがとう」
華子は、そう言って、窓から校内へと入った。
「うぅ……今日も不気味」
慣れない最大の理由――それは、不気味だということだ。そして、怖い。
見えないものが見えてしまう華子でも、慣れることはない。
寧ろ、全く慣れない。幽霊にも、お化けにも、怖いものは怖い。
廊下を足早に進む華子の横を、ふっと何かが通る。
「ひッ……」
ビクッと声を上げると、クスクスと笑う声が遠ざかった。
「……またあなたか……もう、いい加減にしてよ? うん、まあ、こんばんは」
またクスクスと返事が聞こえた。何を言っているのかは分からないが、これがこの声の返事であり、挨拶なのだと最近知った。それだけ、これに驚かされているわけだ。
と、今度は、ふわっと肩を撫ぜるような感覚があった。
「きゃっ⁉ もう! こんばんは!」
華子は驚き、キレながらも、挨拶をする。これもいつものことだった。
廊下にいつものメンバーがいる。
それを感じるのは久しぶりだった。
前月は、呪われた彫刻がこの小学校に持ち込まれ、学校内にいたお化け達でさえ怯え、姿を見せなかった。
まだ呪われた彫刻の力は残っているみたいだが、以前ほどの邪悪さは感じられない。
(上手くやってるのかな?)
華子は三階へ向かった。




