一話 呪われた彫刻11-2
意識ははっきりしていたが、大事を取って、もう一日入院することになった。
母親は、華子の着替えを取りに、一度家に帰った。
直也の他に、見舞いに来る客はいない。クラスメイトの中に、友達と呼べる人はいないから仕方がない。
華子は、少しだけ起き上がり、病室の窓の外を眺めていた。
久しぶりに夕焼けを見た。茜空が眩しかった。
ガラガラと病室のドアが開く。
母親か看護士かと思ったから、振り返らなかった。
が、かかった声は違う。
「橘、大丈夫か?」
「……え?」
華子は、まるで油の切れたロボットのようなカクカクとした首の動きで、そちらを見やる。
「あっ、吾妻君⁉ どうして……⁉」
入口で立ち止まったままの霖之助に、華子は声を上げた。それはやっぱり少し掠れていた。
「迷惑、だった?」
霖之助は、昇降口で言った言葉と同じように困った顔をした。
「いやっ、あの……」
入ろうかどうしようか迷っている様子の霖之助に、華子は椅子を手で差し、促した。
「よ、よかったら……」
やっとそれだけ言えば、霖之助も、「あっ、うん」と答えた。
ちょっとだけ沈黙が流れた。
が、このままでは何も話さず終わってしまう。
華子は勇気を振り絞った。
「部活は?」
今日は久しぶりに晴れている。
あの時は雨だったが、今日は晴れた空が会話のきっかけとなった。
「昨日、足首捻っちゃって、今日は休んだ」
「えっ? 大丈夫?」
「ああ、少し痛むけど、二、三日安静してればいいって。今日、学校終わって、この病院に来たから。丁度、橘がここに入院してるって聞いたし、お見舞いもって思って……迷惑だった?」
霖之助は、早口に言って、最後に目を伏せながら言った。
「そっ、そんなことないよ! 今までこんな風に来てもらったことないから、嬉しい」
慌てて返した言葉は、華子の本心だった。
今まで入院したことはなかったが、学校を休むことはよくあった。でも、クラスメイトが心配してお見舞いにくることはなかった。時々帰り道で仕方なく、というように宿題のプリントなどを持ってくるだけだった。
こうして、クラスメイトがお見舞いで来てくれることは、はじめてだった。
嬉しいような、恥ずかしいような、でもやっぱり嬉しい。むず痒さが体を走っている。
「ありがとう、吾妻君」
華子のお礼に、霖之助は「うん」と頷いた。
「そういえば、何も持ってきてない」
「いいよいいよ。気にしないで」
「あっ、宿題。今日これ」
「えぇ……数学……」
「数学嫌い?」
「うん、嫌い。苦手」
「何が分からない?」
「うぅん……これ」
霖之助が広げた数学のプリントを、二人で覗き込む。華子は分からない問題を指差し、霖之助は筆箱を出した。




