一話 呪われた彫刻10-2
「……まだ、いるんだよね?」
『ええ。でも、しばらくは大人しいんじゃない? かなり削ってやったから』
「でも、また引き寄せるんでしょ?」
華子は、さっき花子が言った言葉を思い出していた。
元々は、悪しきものを封じるための物だった。しかし、いつからか、誰かの意図なのか、それを増幅した上にまき散らす呪われた彫刻となってしまったそれは、再びこの辺りの邪気を吸い、力を蓄えてしまうだろう。
そうなってしまえば――
『あたしがどうにかするわ。ここにある間はね』
そう、この小学校にある間は、花子が定期的に邪気を消してくれるだろう。
その後は――と、華子は考えるのを止めた。
「ぅん……」
「あっ、直也君!」
華子は直也に向き直った。
「直也君、起き上がれる?」
「ぅ……」
声は聞こえているようだが、まだ意識ははっきりしていないようだ。
『ハナ、そろそろ行った方がいいよ』
「え?」
『ここを抑えているのも限界みたいだから。直也を連れて、外に出て』
学校のチャイムが鳴り響く。いつもよりも重音に聞こえた。
「分かった」
そこで、直也がゆっくりと瞼を開けた。
「うぅ……華子お姉ちゃん……?」
「直也君! 良かった。歩ける?」
小さく頷く直也に肩を貸し、開いた窓へと二人で歩く。
そこで、華子は「あっ」と言い、振り返った。
『ほら、はやく行きなよ』
「花子、ありがとう。またね」
華子のそれに、花子は少し驚いたような顔をしていた。
『うん、またね』
花子が言えば、華子は笑って手を振った。
直也に手を貸し、窓から出る。
いつの間にか、雨が止んでいた。まだ黒い雲が空を支配していたが、ゆっくりと流れ始めていた。
止まない雨はない。
学校のチャイムが鳴った。さっきとは違い、いつもの音だった。
少しだけ後者を顧みた。さっきまでの不穏さは薄れていた。
華子は直也の手を引き、いつもの裏のフェンスから一旦出て、スマホで救急車を呼んだ。
直也は大丈夫と言ったが、疲弊しているのは明らかで、ふらふらとしていたからだ。
サイレンの音が近付いてくる。
華子の意識は遠退く。
繋いだ手は、でも強く握った。握り返してくる力を心強く感じた。
誰かが話しかけてきた。その声に答えることは、できなかった。




