一話 呪われた彫刻1-1
今夜は月が綺麗だなと、華子は思った。それに、月光があれば楽だ。忍び込むことに慣れていても、光があるのとないのとでは全然違う。
華子は、小学校の裏手にあるフェンスの僅かな隙間から体をねじ込ませる。
少しでも太ったら入れない。体型維持のための良い口実になっていると、華子自身思っていた。
でも、もう少し成長してしまえば、ここを通れないかもしれない。その時は、どうやって入ろう、と今から少し考えていた。
華子は、小学生ではない。二年前に卒業したのだ。それでも、週に一度、華子は卒業した小学校へ忍び込む。
コソコソと裏門付近の窓を開ける。そこは、いつも開いているのだ。それが何故か、先生達はきっと知らない。今知っている児童もいないかもしれない。
華子も、実はこうしてくれている者に出会ったことはないが、噂だけは聞いていた。今日もその人物(と言っていいのか華子には分からない)が、週に一度の夜の訪問者のために窓の鍵を開けてくれていた。
卒業した時と変わらない教室の並びが、月明かりにぼんやりと浮かび上がる。何度訪れても、夜の学校は不気味で、慣れることはなかった。
しかも、華子には特殊な能力があった。
それに気が付いたのは、小学三年生の時だった。
(今夜は静かな方かな)
華子はホッとした。が、この静けさにどこか違和感を覚えながらも、目的の三階の女子トイレを目指す。
ここに来る度に思い出す。
周りの子達と違うものを見て、口にすれば、段々と気味悪がられた。それはいつしか仲間外れという形になり、からかわれる要因となった。気付けば、友達と呼べる子はいなくなっていた。
いつも独りぼっち。華子は、目立たたないように学校生活を送っていた。それが返って、孤独へと彼女を誘った。
それを救ってくれたのは、皮肉なことに特殊な能力だった。
からかわれるだけだったのが、完全にいじめとなっていた四年生の初夏。
同級生達にお父さんから買ってもらった大切なキーホルダーを取られ、三階の女子トイレの三番目の個室に閉じ込められた時だ。
誰も助けてくれなかった。声を上げても、嘲笑が返ってきて、ついには水音がした。同級生達が、水を張ったバケツを持ち出したのだ。
大量の水を被ることを覚悟した時、彼女が現れた――
「花子、お待たせ」
それは、通常の女子中学生が、友人の家に遊びに来た感覚と同じだ。華子には、殆ど経験のないことだが、きっとそうなのだろうと思う。
リビングにあるソファに腰をかけるように、華子は少し低めの手洗い場に背を預けた。
「……あれ? 花子、いないの?」
いつまで経っても現れない友人を、再び呼んだ。
が、返事がない。




