一話 呪われた彫刻8-4
「直也君?」
「ッ……」
華子の呼びかけに、フッと頭を垂れた直也だったが、次の瞬間――
『ユルサナイ……!』
ギリギリと奥歯を鳴らし、飢えた獣のように、飛びかかってきた。
「きゃッ!」
華子と直也の間に、花子が滑り込み、青い炎を放った。それに当てられた直也の体は吹っ飛んだが、俊敏に体を捻り、床に着地する。動きまでまるで獣だった。
『グゥ……ギイィ……』
歯を剥き出しにして、直也は唸っていた。
「な、直也君に何が……?」
『さあ? この子の一体だけとは限らないからね』
花子はそう言い、また彫刻に向いた。
『この彫刻は、本来悪い気を閉じ込めるために作られた形代だったみたい』
「どういうこと?」
そこで直也の体を使い、何かしらが飛びかかってくる。それを再び花子の気が退けた。
唸り声が一層大きくなる。それは、雨の音も相まって、悲痛な叫びにも聞こえた。
『通常なら、あれが悪いものを吸ってくれるはずなの。でも、術が弱かったのか、誰かが意図的にそうしたのかは知らないけど、悪い気を引き寄せては放出する面倒で厄介で最悪な呪術になっちゃってるってことよ』
「こんな不気味な物が、本当は守ってくれる物だったってこと?」
『そう作ったのかどうかは知らないけどさ。まあ、本来はね、今と真逆だったのよ』
華子は、血の涙を流す彫刻を見詰め、それから変わり果てた直也に視線を移した。
何が彫刻をこんなに禍々しい物へと変えてしまったのだろう――?
今は誰にも答えを出せない。
『とりあえず、まずはこいつをどうにかすれば、少しは大人しくなってくれるかしらね?』
花子が直也に向かって駆けた。
黒いヘドロのような気が、花子に放たれる。が、それを軽やかなステップで彼女は避けた。
『場数が違うんだよ!』
華子はそう言って、直也の懐に飛び込んだ。
細い腕を少年の薄い体へと突き出す。
「花子⁉」
実態はないと分かっていても華子は驚愕し、心配になった。
花子がグッと刺した腕を引く。
『ギィ……!』
『出てこんかい!』
花子はさらに腕を引いた。ずぽっと腕が抜ける。
と――ドロドロとした影が、直也の体から出てきた。
「ぃ……ぃたい……!」
『ッ!』
急に上がった直也の悲鳴に、二人のはなこは困惑した。
「花子! 直也君の魂まで!」
『チッ……面倒臭い』
花子が手を離せば、ドロドロした影は再び直也の体に戻ろうとする。
『ちょっとお邪魔するよ? 少年』
花子は言うと同時に、直也の体にドロドロとした者達と入った。
「はっ、花子⁉ 何を⁉」
華子が叫んだ時には、トイレの花子さんは直也の体の中だった。




