表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/120

一話 呪われた彫刻8-3

『この世に不満たらたらで、ぶっ壊してくれるほどの力を持つ誰かさんを待っていたようだが、残念だったな。あたしの友人は、いろんなことに不満だらけだが、生きていくことを諦めちゃいないんだよ』


 花子はそう言って、すぅっと呪われた彫刻に近付いた。


『ちかづくな……』

『いきてない……いきたくない……』


 また中から声が溢れる。

 それだけではない。

 顔という顔から、赤い液体が滲み出てきた。


「ひっ……」


 まるで血の涙だった。

 次から次へと。歪んだ顔が、さらに歪んでいく。

 華子はそれらをただ茫然と眺めていた。


『いやだいやだいやだ』

『いやいやいやいや』

『いきたくない』


 花子が溜息を吐いた。


『ここにいたって、苦しいだけなのにね』


 花子は哀しそうに呟いた。

 が、すぐに同情を消す。


『嫌でも、あっちへ送ってやる』


 青白い炎が立ち上る。

 それは、彼らを解放するためか、消去するためか。

 それが、ここに存在する者にとって良いことなのか。

 華子には分からなかった。


(なんだろう……なんでわたしが迷うの?)


 ――と、彫刻から一体が飛び出し、華子に向かってきた。


「え……」


 華子が唖然としていると、それがするりと体の、心の内側に滑り込んできた。

「ッ……ぃ」

『ハナ……⁉』


 花子がこちらに勢い良く向き直る。

 喉が焼け付く。自分ではない誰かの記憶が、頭名の中を駆け巡った。

 女性の、記憶のようだ。

 誰からも必要とされず、いつも孤独。声を上げても、助けてくれる者はいなかった。


 寂しい……悲しい。つらい。


 息が苦しい。


『ハナ! あたしを見て!』


 口をパクパクさせながら、華子は花子を見た。

 涙と鼻水が出る。喉の奥が痛かった。


「は、はっ……花子……」

『もうっ、どうしてあんたはいっつも……』

「苦しい……寂しいよ……独り、いつも独りで……」

『ハナにはあたしがいるでしょ?』


 花子の手が、華子の肩に伸びる。もちろん、そこに体温はない。

 しかし、なぜか温もりを感じた。

 赤いワンピースを着ているのに、花子から放たれているのは、青い温かさだった。


「花子……?」

『もう、満足でしょ? この子は優しいのよ。あんたにも同調してくれる。あんたと同じように孤独だったから。これで、あんたも独りじゃないわ』

「うっ……っ……」


 自分ではない涙が溢れてきた。



 ごめんなさい……



 心の中で、そう聞こえた。


「あ、……謝らないで……いいよ……」


 嗚咽が止まらないが、華子は胸に手を当て、そう言った。



 ありがとう



 仄かの体の中が熱くなる。

 寂しくて、つらく、悲しい涙が、ゆっくりと優しいものへと変わる。


『さっ、これで大丈夫』

「あ、ありがとう……花子」


 涙が止まらない。

 華子は、細いが力強い腕に、抱き締められたような感覚がしていた。実体はないが、それは花子だと、華子は思った。


『お礼はまだ早いわ。こいつの中にいる奴らは、消えてないんだから。それに――』


 花子は、横たわる直也に向く。


『少年の方が厄介か……』


 ゆらりと直也が立ち上がった。

 そして、こちらを向いた。その顔に血の気はなく、表情もない。虚ろな眼差しの奥は、しかし黒々とした光が灯っているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ