一話 呪われた彫刻8-2
「花子……どうしよう……ねぇ、あたしが来てることに気付いているでしょ……?」
こんな時ばかり、友人を頼ってしまう。それが華子は嫌だった。
どうにかここから直也を引き離すことだけは、自分でやらなければ――
そう思うのだが、何度手を伸ばしても、電撃のような痛みに遮られる。
「ッ……もう! 呪われた彫刻なんか、壊れてしまえばいい!」
壊したら、中にいる連中が一気に溢れ出す。
花子がそう言っていたが、現状を変えるには、こんな彫刻を壊した方がいい。
華子は、彫刻の前に立った。
「こんな物があるから……!」
苦痛、悲痛、憎悪に歪んだ顔、顔……顔。
見ているだけで吐き気がする。
なぜ、こんな物が小学校に入ってきてしまったのだろう。例え、有名な彫刻家が作った物でも、表現の自由だと言われても、ない方が世の中のためだ。
華子は、意を決し、彫刻に手を伸ばした。
「こんな物……!」
顔達が、一瞬嗤った気がした。
「え?」
光が一層強くなる。
「きゃっ⁉」
それは、華子を取り巻き、彼女の中に入ろうとした。
声が聞こえる。
『きた……きた……!』
『わたしのからだ……』
『おれのだ……』
『そとにでられる』
『きた……ついにきた……!』
ギシギシと音を立て、彫刻の中から華子へと黒い光が集まる。
「いっ、いやぁ……! わたしの中に来ないでぇ!」
我武者羅に腕を振り、華子は抵抗した。それが無意味だとどこかで分かっているけれど、そうせざるを得なかった。
「たっ、助けて! 花子!」
叫ぶと同時に、青い炎のような光が華子を包んだ。
『ぎいぃ……!』
『あついぃ!』
『いきたくない! いきたくないよぉ……!』
耳を劈く声が、華子の鼓膜を痛いほど揺らした。
青い炎が薄れると、声も消えた。
華子はへたりとその場に座り込んだ。
炎を繰り出した人物を、華子は知っている。
「は、花子……」
移動させた視線の先に、万年赤いワンピース姿があった。風もないのに、長い黒髪とスカートの裾が揺れている。まるで、怒りを孕んでいるかのようだった。
『ったく、世話の焼ける友人だこと』
華子は心から安堵し、友人の顔を見た。と、またゾッとする。
友人の――花子の顔は、普段の少女のそれではなかった。切り揃えられた前髪から覗く目は、鋭く光り、血の気のない顔はさらに白く透き通っていた。青い炎が絶えず、少女の周りを走る。
「花子……」
やっと友人の名を呼べば、友人は小さく息を吐いた。
『来るとは思っていたけど、ここまで無鉄砲だとは知らなかったわ』
「ご、ごめん……」
『まあ、またハナの新たな一面を知れたと思うことにするよ』
仄かに笑った花子は、また剣呑な表情に戻る。
そして、鋭い眼光を不気味な元凶へと移した。




