一話 呪われた彫刻8-1
夜になってから行こうと思っていた小学校に、華子は足早に向かっていた。
実は、途中まで霖之助と一緒に帰っていた。偶々同じ帰り道で、相手も気まずかったのではないかと心配になる。
何を話していたかは、正直憶えていない。霖之助がぽつぽつと言うことに、華子は緊張しながらどうにか答えていた。
このまま最後まで一緒に帰れるかも、と思っていたら、不意に聞こえてきてしまったのだ。
帰り道に、いつも電柱脇に立っている女の人がいるのだ。それは、華子以外には見えない人だった。そう、彼女は幽霊だ。
彼女がぶつぶつと呟いていた。
『男の子、男の子、呪われた、呪われた……呪われた子、学校行った』
その瞬間、華子は踵を返した。
霖之助が驚いていた。「忘れ物?」と聞かれ、「うん、ごめん」と慌てて返した。
唖然とする霖之助を置き去りにし、華子は駆け出した。
小学校までもうすぐだ。
傘の意味は殆どなかった。走り辛かったから途中で閉じた。ずぶ濡れにもなり、悪い気が凝縮した場所に自ら行くとなると、明日は学校を休むこと確定だろう。
だが、行かなければならない。
夜と違って、正面玄関は開いていた。しかし、いつものように華子は裏のフェンスから体を捻じ込ませる。
見付からないように、開いている窓を探した。が、そういえば雨だから開いている窓があるはずはない。まだ先生達もいるはずだ。
「勢いでここまで来ちゃったけど……どうしよう……?」
と、一つだけ開いた窓があった。そこは、確か図工室――
「ま、まさか……!」
華子は中を覗いた。
「直也君!」
華子のようにずぶ濡れで、部屋の中央に倒れている男の子。直也に間違いなかった。
華子は迷わず中に入り、直也に近寄った。
その前には、不気味に光る彫刻があった。
「これが……呪われた、彫刻?」
それは、華子が想像していた物よりも小さかった。大人の頭くらいだろうか。見た目は表現し難い気味の悪さを感じた。無数の顔が彫り込まれているのだ。それはどれも苦痛なのか、悲痛なのか、はたまた憎悪なのか、歪んでいる。
光っているのは、恐らく気のせいではない。彫刻自体がぼぉっと仄かに光を発していた。
「これから離れないと……」
華子が直也を抱き起そうと手を伸ばせば、それは何かに弾かれた。
「ッ……⁉」
まるで電撃が走ったような痛みに、華子は手を引いた。
「なんか変なのが纏わり付いてる……わたしじゃどうしようもないよ……」
真っ青な顔で倒れている直也に、焦りだけが募る。
時間がない。このままでは、彼の命が危ない。
華子の直感が告げていた。
しかし、見ることはできても、華子に除霊する力はない。悪い気を祓う能力もなかった。
自分の無力さを感じた。




