一話 呪われた彫刻7-2
「俺、いつも一人で帰ってるよ」
「そうなの? 教室では友達と一緒だから、誰かと帰ってるのかと……」
さっきまで友達と帰る生徒達で昇降口は溢れていたが、今は少なくなっている。みんな、早く帰れることが嬉しいのか、学校を出るのが速かったようだ。きっと、自宅待機をきちんと守る生徒は殆どいない。友達と駅前のファーストフード店やゲームセンターなどに行くのだろう。後で注意されることよりも、今の楽しみの方が勝る年頃だ。
霖之助がまた苦笑した。
「俺の家はみんなと反対だからさ。あんまゲームもしないし、ご飯にも行かないから」
「あ、そうなんだ」
「うん。橘さんとは……帰り道、同じなんだけど」
「えっ……?」
知らなかった。通学中、霖之助を見たことは一度もなかった。
それよりも、霖之助に苗字を呼ばれたことに、改めて自分が彼と話していることを意識し、ドキドキと胸が高鳴ってしまう。
霖之助が困ったように頭を掻く。
「あっ、でも、俺、いつも朝練あるし、帰りは部活で遅いから、そんなに顔合わせないよな」
「そ、そうだね。会ったことなかったから……そ、それに、わたしはあんまり周りを見ないし」
「そんなに俯かなくていいのに」
「え?」
華子が顔を上げれば、今度は霖之助が顔を逸らした。
周りのがやがやした声は、すでに引いていた。昇降口には、華子と霖之助、後数人の生徒がいるだけだった。
雨の音が、また耳に入ってくる。
霖之助が暗い空へと視線を向けた。
「雨、止むといいな」
霖之助は独り言のように呟いた。
華子も霖之助に倣い、空を見上げる。
「うん、そうだね」
呪いが解ければ――
でも、この雨がなければ、霖之助と話す機会はなかった。
華子は少しだけこの雨に感謝したのだった。




