一話 呪われた彫刻6
おいで……おいで……
図工室の前で倒れていた、と保健室の先生から聞いた。
だが、自分のクラスである三年一組の教室を出てからの記憶がなかった。
なんだか、頭の中に霞がかかっているようだった。
ハッキリとしない。でも、聞こえる声がある。
おいで、おいで――と。
たくさんの何かに呼ばれている。
大事を取って、学校を休むように言ったお母さんの言葉に頷いたものの、行かなければならないと心が急く。
「ぼく……行かないと」
ベッドから抜け出し、部屋を出て、玄関へ向かう。
と、母親が家から出て行こうとする直也に気が付いた。
「ちょっ、……直! どこへ行くの⁉」
直也の意識は、そこでふっと自分の体から離れた。そんな感覚だった。
『五月蠅い……』
ねっとりとした、男か女か分からない声が、自分から発せられた。
母親の顔が凍り付いた。
「なっ……直也……?」
母親を見る直也の顔に表情はない。
逆に、母親の顔には怯えが張り付いていた。
「ね、……ベッドに戻って……」
『五月蠅い!』
その声は、家を揺らし、母親を吹き飛ばした。
(お母さん!)
しかし、直也の声は音にならず、湿った空気に溶けた。
直也の体は、雨の降る外へと出ていく。
母親は痛みに蹲り、呻いたが、どうにか直也を引き留めようと、腕を伸ばした。が、それは空を切るばかりだった。
それを直也は空中で見ていた。
(た……助けて! 誰か!)
自分が自分ではない。
振り返った自分に、直也はゾッとした。
血の気のない顔。
(あれは一体――誰なんだ⁉)




