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五話 受け継いだ者14-1

 体調が戻るのに、一週間もかかるとは思わなかった。

 華子は、鈍ってしまった体を叱咤し、制服に着替えた。あの時切れられたスカートは、新調した。


「まだ顔が青白い」


 久しぶりの家の鏡の中の自分の姿を映したが、生気がなかった。


(わたしが幽霊みたい)


 でも、もう熱もなければ、筋肉痛も治まっている。

 邪気に当たり過ぎたせいもあるが、花子に体を貸した影響も大きい。

 今考えれば、無謀だった。

 この地域のボスとも言える強力なお化けに、体を貸したのだ。霊力なのか。生命力なのか、華子には分からないが、自身の気をずっと花子へと流し続けていた。その上、自分が生きている中で絶対にしないであろう動きをこの身体でしたのだから、筋肉痛だけで済んだことが奇跡だった。

 支度をしている華子に、部屋のドアのノックが聞こえる。


「本当にもう学校へ行くの?」


 ドアが開き、心配そうな顔が覗いた。


「もう少し休めば?」

「ただでさえ成績が下がってるのに、これ以上授業に遅れちゃったら、志望校に行けなくなっちゃう」

「もう……誰に似たのかしら?」

「鏡見てみる?」


 華子がクスクス笑うと、母の郷子きょうこは苦笑し小さく息を吐いた。

 あの後、高熱が出て、華子は倒れた。

 霖之助が救急車を手配してくれたらしい。

 運ばれたのは、なんと瑠奈が入院している病院だった。慌てて出て行った華子が数時間後に運ばれてきて、相当驚いていたと、後から母から聞いた。

 瑠奈の方は、テケテケが天へと旅立った後、すぐに目を覚ましたようだった。病室が違ったから、入院中会うことはなかったが、会ったところで華子は高熱で魘されていたし、それがなくてもきっと話せることはなかっただろう。

 瑠奈は先に退院し、結果的に、また華子の方が長い入院となってしまった。

 その間、直也と美優紀が毎日お見舞いに来てくれた。が、最初の二、三日はやはり話すことができなかった。

 三日ほど経ち、辛うじて泣きそうな直也と、安堵の表情を浮かべる美優紀を認識できた。

 華子は、まず二人に謝ろうと思った。


 美優紀に、約束を守れなかったことを詫びようと――


 でも、声を出そうにも枯れていて、喉に息が通る度、咳き込んでしまった。

 美優紀が、大きく深い息を吐いた。そして、言った。



『約束破った罰として、体調が戻ったら美味しいケーキを食べに行きましょう』



 美味しいケーキは、まだ食べられない。

 体調が完全に戻ったわけではなかった。

 でも、それは罰なのに、華子の心を軽くする美優紀の思いやりだった。

 いつも通り、通学路で直也と会った。

 直也が嬉しそうに華子の横に並ぶ。


「おはよう! ハナ姉ちゃん!」

「おはよう、直君」

「体はだいじょうぶ?」

「うん、まだ完全じゃないけど、これからはまた直君と学校に行けるよ」

「そっか! よかった!」


 嬉しそうな直也の顔が、華子の心をまたじんわりと癒した。

 それから、普段と変わらず、直也の好きな怪談話を聞いた。どうやら新しい話を仕入れたようだ。


「ハナ姉ちゃんは、テケテケって知ってる?」

「えっ?」


 恐怖が瞬時に蘇ってきた。

 にたりと嗤うあの顔。掠れた声。

 またテケテケと音が聞こえてくるような気がする。


 まさかここであの名を聞くことになるとは――


「ぼくね、このお化けのことを聞いた時、かわいそうだなぁって思ったんだ」


 直也の言葉に、恐怖がすぅっと引いていく。


「だって、痛い思いをしたのに、他の人の怖いって気持ちが、女の子を幽霊にしちゃったって書いてある本もあって……でも、ぼくも会ったら怖がっちゃうんだろうなぁ」


 華子は、最後のテケテケの表情を思い出した。恐ろしい形相で襲いかってきていた彼女も、最期はただの少女だった。

 微かに動いた唇。あれは、何と言っていたのだろう。

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