五話 受け継いだ者13-3
触れないはずのお化けの体。しかし、花子が体に憑いているからか、テケテケの体を感じた。
彼女の体は冷たかった。
『無駄だよ……アタシは、また蘇る』
『でも、それはあんたじゃない』
『同じさ。人の恐怖と負の感情が、アタシ達を此処に縛り付けるのさ』
微かな脈動を感じた。と、テケテケの体がぼぉっと輝き出す。
『あぁ……あったかい』
先ほどまで歪に嗤っていた表情に、少女らしい微笑みが浮かんだ。
『甘いのね、あなた達は』
『あたしじゃなくて、ハナの力よ。誰かを助けたいっていう、あたし達にはもう使えない優しい力』
花子がふっと力を抜いた。
その瞬間、華子は自分の体に戻ってきた。
「あっ、あれ?」
でも、テケテケに触れた掌からは、じんわりと温もりを感じていた。
「……もう、休んで」
自分の顔なのに、どんな表情をしているのか、華子には分からなかった。
でも、テケテケの表情だけはよく見えた。彼女の唇が、微かに動いた気がした。
温もりは眩い光となり、ゆっくりと天へと昇って行った。
最後の光の粒が上り切るまで、華子は真っ暗な天を見詰めた。
横には、万年の赤いワンピースが揺れている。そこから、二本の足が覗いている。
『ハナのおかげで、取り戻せた』
「足のこと?」
優しい笑みが返ってきた。
ゆっくりと時が流れ出す。
黄金色の月が、二人を照らしていた。
『ハナ、……』
花子が切り出した、その時。
二人の周りに、此処の住人の気配が一気に溢れた。
『ハナちゃん! ありがとう!』
ピアノが満面の笑みで傍に飛びついてきた。が、華子の体を擦り抜けていく。
『あ……体ないこと忘れてた』
舌をちろっと出して笑う彼女に、華子も笑った。
見たことがある者も、見たことのない者も、皆がはなこ達の周りを囲って、嬉々としている。
「橘!」
霖之助の声がした。
しかし、傍に瑠奈の姿がない。
「平井さんは⁉」
不安になり、霖之助に問うと、霖之助は首を傾げていた。
「そ、それが、消えた……」
「え……?」
まさか、手遅れだったのか――
『戻ったのよ』
花子が言った。
『此処には、テケテケが創ったとこから迷い込んだだけみたいね。だから、体がある世界に戻っただけ』
「そっか。今平井さんは、病院にいるはず」
華子はホッとして、笑おうとした。
が、それはできなかった。
「あ、……あれ……?」
視界が傾く。
ハナ、ありがとう。
薄れていく意識に、柔らかな言の葉が聞こえた。
(美優紀さんとの、約束も守らないと……)
誰かに抱き留められた気がしたが、その温もりを記憶する前に、華子の意識は遠ざかっていった。




