五話 受け継いだ者12-2
(そういえば、さっきまで浮いていなかったのに、今どうして浮けてるの? こ、このお化け……もしかして……)
ゴキゴキと骨の軋むような音がして、華子はそちらへと目をやった。
侵入者の右腕が、枝のように伸びていた。
『どうしても欲しいものがあったら、あんただって同じことをするはずさ』
「そっ、そんなこと……!」
『あんたの大切なお友達だって、ねぇ?』
伸びた腕が起こした風で、華子の体は薙ぎ払われた。
「きゃっ……!」
地面に叩き付けられ、一瞬息が詰まる。
『ひひひぃ……』
じわじわと近寄ってくる気配がする。
『しかし、此処の連中は薄情だねぇ。誰もあんた達を助けない』
相手は楽しんでいる。死の恐怖を感じる者を見て、自らの力にしている。
絶望は、彼女にとって唯一の希望のようだった。
『あんたのアシを引き千切ってやれば、此処にはもうトイレの花子さんは生まれない』
体中がじんじんと痛む。
『あんただって分かってるんだろう?』
(分かってる……わたしは、花子の……)
『ハナちゃんから離れろ!』
聞き慣れた声に、華子は顔を上げた。
『貴様は⁉』
侵入者の背にしがみ付いている影がある。
「ピアノちゃん……!」
『ハナちゃん! はやく花子さんを……』
『放せ! この低級霊が!』
『きゃっ!』
振り払われたピアノが、華子と反対側へ飛ばされた。
侵入者がピアノを追って、腕を振り上げ、鞭のように下ろした。が、それをピアノはギリギリで避ける。パシッと軽快な音がし、砂が舞った。
『まさかこっちに来てたとはねぇ』
『あなたのおかげでね』
華子は気付いた。
(ピアノちゃんがこうなってしまったのは、あのお化けのせいだったんだ……)
侵入者がゲラゲラと嗤い出した。
『いいよぉ。今度こそ、完全に消滅させてあげるわぁ!』
その嗤いを掻き消すように、華子の頭に語りかけてくる者がいる。
(時間稼ぎは数分も持たない。ハナちゃん、お願いね!)
痛む全身を叱咤し、華子は立ち上がった。
そして、走る。
背後で迫ってくる狂気と、ピアノの決死の覚悟がぶつかりあっている。恐怖に背中が焼けそうだ。
ただ、前を見た。揺れる地面に吸い込まされそうになる。
(花子! ダメ!)
赤いワンピースが見えた。
片足がない。
華子は、ゾッとした。
自分の命の危険への恐怖でない、大切な人を失う恐怖が心を締め上げた。
涙が溢れる。
花子の体が、気配が、消えてしまう。
泣いても、どうにもならないのに――
「花子! わたしの体を使って……!」
地面から覗く小さな手に、華子は自分の両手を伸ばした。




