五話 受け継いだ者11-2
「あたしのことなんか、ほっとけばよかったじゃん」
泣くのを堪えているのが分かるほど、瑠奈の声はか細かった。クラスの中ではムードメーカーであるはずの彼女の姿は、今此処にはない。
華子は、答えに困っていた。
そんなクラスの地味で幽霊や妖怪が見える変な女に焦れたのか、瑠奈は続ける。
「別に、助けてなんて言ってないのに……いっつも、あんたなんて嫌いだって思ってるのに……」
華子の胸の奥がじくりと痛む。
良い感情は持たれていないことは知っているが、面と向かって嫌いだと言われると、さすがに傷付く。
「平井、おまえ、本当にいい加減に……」
「もういいよ! もう……二人とも逃げなよ……あいつはあたしを探してる。あたしが行けば、それで終わりでしょ?」
瑠奈の目は鈍い光を放っているようだった。
それは、テケテケに追われているせいだけではない。
病院で会った瑠奈の両親が、華子の脳裏を過る。
「平井さん、吾妻君とここにいて」
「だから! 助けてほしいなんて言っていない!」
「あなたを助けるためだけじゃない!」
「ッ……」
思いのほか大きな声が出て、華子自身も驚いた。が、それだけ強く想っているのだと、確信できた。
周りを守る気配は強くなった。
(この気配は、平井さんを守ってる?)
華子の内心の問いに応えるように、老人が一瞬だけ顕現した。が、すぐに姿を消した。
華子は小さく会釈をした。
「平井さんのためだじゃないから。それに、ここを動けば、邪魔になる」
揺れる学校に、徐々に薄れていく気配。
時間がない。
「動かないでね」
華子は、霖之助と瑠奈を交互に睨み、踵を返した。
「橘! 元の世界に戻ったら、……いや、此処でまた」
華子は駆け出しながら、小さく頷いた。
何かができるはずだ。
華子は信じた。
これまでに自分の力を信じることなどなかった。
しかし、それだけの価値があるのだ。
花子はずっと自分を此処に呼んでいた。
ずっと前から気付いていた。
親友が、親友でいてくれている理由――
でも、今はそんなことどうでもいい。
助けなければ。助けたい。
(花子、待ってて!)
華子は、校庭に向かって走った。




