五話 受け継いだ者11-1
学校が、いや此処すべてが揺れている。
校舎の所々に罅ができている。
トイレからは水が噴き出し、床が水浸しになった。
花子の気配が、どんどんと――
「橘、此処は危険だ。逃げなきゃ……!」
霖之助の声に、華子はハッと我に返る。
「行こう!」
「此処は崩れない」
「えっ?」
手を伸ばす霖之助に、華子は首を横に振る。
周りを守る気配が強くなっていることを感じていた。
「花子は必ず約束を守ってくれる。だから、吾妻君は平井さんとここにいて」
「橘は?」
「わたしは……」
三階の女子トイレの前で、自分は泣いていることしかできなかった。
此処に残っても、何かできることがあるわけではない。
自分は、見えて喋れるだけで、除霊ができるわけでも、憑き物を落とせるわけでも、お祓いができるわけでも、ましてや親友のように戦うことなどできない。
何もできない自分が情けなく、腹が立つ。
しかし、だからといってじっとしていられない。
(今度は、わたしが助けるんだ)
華子は、階段の方へ向いた。
が、それは力強い手で引き留められる。
「駄目だ」
「吾妻君、ごめん。放して」
「俺だって約束した。花子さんからおまえのこと、頼まれたんだ」
揺れが大きくなっていく。
此処が壊れれば、きっと華子達がいる小学校に戻る。
それは、あの強大な力を持つお化けも、元の世界に解き放つということだ。
それだけは絶対に避けなければならない。
この中にいる者達も、必死で此処を支えようと力を使っていることが、華子には分かった。
(みんな、此処が居場所なんだ)
華子は霖之助に振り返り、精一杯の笑顔を見せた。
「わたしは大丈夫。実はわたしの力、本当はすごいんだから」
嘘だった。
今まで誰かを守るために力を使ったことなどない。
先ほどの眩暈と頭痛が戻ってきて、じわじわと華子の体力と気力を蝕んでいる。
体が震えている。怖いと全身が警告している。
それでも、行くのだ。
「な、なんで?」
トイレの前の廊下の端で蹲っていた瑠奈が、戸惑いを滲ませながら訊いた。
華子がそちらへ目を向ければ、困惑なのか、恐怖なのか、はたまた憤怒なのか、どれもが混ざってしまったかのような表情で、瑠奈が見詰め返してきた。




