五話 受け継いだ者10-1
何が神だ。仏がなんだ。
いつだってそんなものは助けてはくれなかった。
この姿になってから尚更だ。
皆がこの姿を恐れる。慄く。
怪物を見るような目を向けてくる。
アタシだってなりたくなったわけじゃないのに。
ただ、足がほしいだけだった。
そうすれば、元通りになると思った。
しかし、足を欲すれば欲するほど、皆が恐怖した。
いつからだ。
いつからこうなった……?
真っ赤な世界が見たい。
引き千切られた脚から流れるドロドロの赤いもの。
声をならない声を上げながら絶望に沈む命を。
アタシはいつから……
アシを欲シタ?
アタシを欲シタ……?
アタシになる、アタシを――
月明かりが、この世界のすべてを照らし出しているようだった。
枯れ木のような腕が、校庭に散らばっている。
ゼェゼェという荒い息遣いが、呼吸のない世界に消えていく。
『門さん、お待たせ』
花子の言葉に、一本腕を残すのみとなっていた門の神が緩慢に振り返った。
『待ってなどおらぬ』
『神気も使い切ってまで足止めをしていたのに? そんなにあの子が大切だった?』
剣呑な目線を向けてくる門の神に、花子は口端を吊り上げた。
(これだから、神って存在は優しいって言われんのよ)
門の神の前に立つ。
『ハナ達をお願い』
花子の言葉に、門の神は再度表情を歪めたが、何も反論せずにふっと姿を消した。
赤いワンピースが揺れる。
此処に入ってきた侵入者を追い出すために。
『いい加減にしなさい』
花子は、前方を睨みつけた。
月光に侵入者が浮かび上がる。
そこにいるのは――
『テケテケ』
腰から下の下半身がなく、両腕でその体を支えるセーラー服の少女。
千切れた腹からは、内臓らしきものがぶら下がっていた。
青白い顔は、凶悪に微笑んでいる。
『あんたが、……此処のトイレの花子さん……だねぇ』
漏れる声は擦れ、老婆のようにも聞こえた。
花子は、自身の精神に集中する。そうしなければ、吹き飛ばされそうなほど、目の前の侵入者の言霊は強力な力を秘めていた。
テケテケは、電車に撥ねられ、胴体が引き裂かれてしまった少女の霊だと言われている。その姿に対しての人々の恐怖と嫌悪が生み出した悲しい幽霊のはずだ。
本来ならば、この侵入者にここまで強力で凶悪な力はない。
『ひひぃ……生きている奴の足を引き千切って、はやく真っ赤な世界を見たいのよぉ』
(こいつ……楽しんでる)
が、次の瞬間、テケテケは花子の顔の前にいた。




