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五話 受け継いだ者9-2

 月明かりは、霖之助達までは届いていない。

 彼女の表情は見えない。

 しかし、声は聞こえる。


「そ、そう……いいわよ、別に」

「平井さん⁉」


 明らかに虚勢だ。

 声の震えで分かった。

 華子は縋るように花子を見た。


「ねぇ、お願いだから……花子」


 この気まぐれで唯我独尊の自称美少女お化けが、そう簡単に折れてくれるとは思っていない。しかし、彼女以外、瑠奈を助けてくれる者はこの世にもあの世にもいないのだ。

 瑠奈も、此処に来たということは、直感か、本能か、分かっていたのだろう。


「平井さん、これからもなんか嫌なことがあったらわたしのせいでいいから、花子にお願いして……」

『なにそれ?』

「え?」


 花子の低い声に、華子は一瞬驚いた。

 友人の顔を見れば、これまで見たこともないほど不機嫌な表情をしている。


『ハナ、それは優しさじゃないよ』

「ッ……」


 分かっている。分かっているけれど、他にどうしようもない。

 自分では、外にいるあれをどうすることもできない。

 一人では助けてあげられない。

 見えるだけ。話せるだけ。これは力でも何でもない。

 ならば、どうにかして頼るしかないないではないか。

 いつの間にか、華子は花子を睨んでいた。

 花子もしばらくは不機嫌を隠さなかった。が、外から何かが激しくぶつかる衝撃に、我に返ったようだった。


『門さんが限界か』


 それから小さく息を吐き、華子を見た。

 その眼は、もう普段の彼女だった。


『ハナ、人の話は最後までちゃんと聞きなさいって誰かに言われなかった?』

「へ……?」


 ふわりと赤いワンピースが揺れる。


『あたしは、あの子を助けないって言っただけ。でも、此処には、ハナと霖之助がいる。あたしの大切な友達がね』

「花子……」


 へなへなと力が抜けたようにその場に座る華子に苦笑して、花子は中を見たくても女子トイレだからと目を逸らしていた霖之助に叫ぶ。


『霖之助、華子もお願い』

「あっ、ああ!」


 霖之助の返事に、花子はにッと笑うと、へたり込んだ華子の頭にそっと掌を置いた。


『ちょっと暴れてくる』


 ゆらゆらと赤い陽炎のように花子が揺れる。

 これは、瞳に薄っすらと溜まる雫のせいなのか。

 華子が確かめる前に、友人はその場から消えていた。


(花子の言う通り……)


 嗚咽が漏れる。


(本当に優しいのは、いつだって、……)


 華子は、泣くことしかできなかった。

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