五話 受け継いだ者8-4
「橘……!」
「えっ⁉ あっ、吾妻君⁉」
思わぬ人物に、華子は目を丸くし、素っ頓狂な声まで上げてしまった。
が、まさに渡りに船。
華子は、瑠奈が狙われていることを説明する。
そして、目的の場所を伝えた。
そこまで行けば、きっと助けてくれる――と。
「でも、わたし一人じゃ、平井さんを連れて行けなくて……」
華子の話を聞いた霖之助は、すかさずその場に屈んだ。
「じゃあ、俺が平井を背負うよ」
これには、瑠奈がさっきとは別の理由で動揺した。
「なんで吾妻君が……⁉」
「橘の、友達だから」
瑠奈が華子をキッと睨んだ。
(あぁ……また何か言われる)
すまなそうな表情をする霖之助に、華子は苦笑で返し、首を横に振った。
霖之助の背中にどうにか瑠奈を乗せて、華子は教室のドアを開けた。
「何か来たら、わたしが囮になるから」
「橘って、除霊とかもできるのか?」
「ううん、全然」
「ちょっ……あんた、なんのために来たのよ⁉」
「耳元で喚くなよ……」
霖之助のうんざりした声と表情に、瑠奈はバツの悪そうな顔をする。
しかし、瑠奈が何か言いたげなのは、先ほどから変わらない。
それを見なかったことにして、華子は階段へ急いだ。
と、また背後から声がかかる。
『どうしてその子を守るの?』
「え?」
振り向けば、ピアノが立っていた。複雑そうな表情で、華子と霖之助、そして瑠奈を見ている。
「なっ、……こ、この子、誰⁉」
「だから、耳元で喚かないでくれって」
驚く瑠奈に、また霖之助が顰め面をした。
ピアノは、瑠奈を見た後、また華子へと視線を移した。
『その子がいるから、ハナちゃんと霖之助君が危ない目に遭うんだよ?』
「そっ……」
声を上げそうになった瑠奈だったが。今度は耐えたようだった。代わりに、不安そうな目を華子に向けていた。
華子も、瑠奈を見る。
『それに、その子のことを彼女が守ってくれると思う?』
ピアノは、華子が恐れいていることを口にした。
そう――彼女は、人間ではない。人間の情で動くわけがない。
それでも、華子は信じたかった。
「行くわ」
『……そう』
ピアノは、仄かに笑った。
『ハナちゃんらしい』
そう言ったピアノがふわりと消えた。
『彼女は、三階のトイレの三番目の個室で待ってる』
ピアノの声だけが、二階の廊下に木霊した。
華子は、霖之助と瑠奈に向き直り、「行こう」と言った。
霖之助が頷く。
瑠奈は、泣きそうな顔だった。
(わたしが助けてあげられたらいいんだけど)
三階へ上がるいつもの階段が、とても長く感じた。




