五話 受け継いだ者8-2
そもそもよく思っていないクラスメイトの問いに、瑠奈が答えてくれるか怪しいと、華子は不安になった。
しかし、あれよりも先に見付けなければ――
(見付けて……わたしにはどうにもできないけど……)
今は自分の無力さを嘆いている場合ではない。
華子は、二組の教室のドアを開けた。
そこも、三組と同じで整然と並んだ机と椅子があるだけだった。
一組へ移動する。
「平井さん?」
華子はまた教室の後ろ側のドアをそっと開け、小声で中へと呼びかけた。
月明かりに照らされた室内には、誰もいないようだった。
が、もしかすると、机の陰にいるのかもしれない。
「平井さん、いる……? わたし、橘華子。いるなら、出てきて」
しんとした教室が、答えだと思った。
この教室でもない。そう思って、教室を出ようとした時だった。
「……ほんとに、橘?」
教卓の下から、か細い声がし、ガタンッとそれが揺れた。
「ッぃ……!」
「だっ、大丈夫⁉」
華子は慌てて教卓の方へと駆け寄った。
そこには、体を丸めて、頭を押さえている平井瑠奈の姿があった。
「頭打ったの? 大丈夫?」
「あっ、あんたが急に呼びかけるから……!」
「ご、ごめん」
睨んでくる瑠奈の声は震えていた。月光に見えた彼女の頬は、涙で目は腫れ、頬は赤くなっていた。
余程怖かったのだろう。
「平井さん、立てる? 逃げないと」
「にっ、逃げるってどこによ?」
華子が差し伸べた手を掴まず、瑠奈はまた膝を抱えるようにして教卓の下に蹲った。
「どうなってんの? 変なのに追いかけられるし、町には人がいないし、この小学校……あたし、なんでここに来たの?」
「今は説明できないけど、此処ならきっと安全だから……」
「どうしてそんなこと言えんのよ⁉」
華子を見て、安心したせいなのか、怯えが苛立ちに代わってしまったのか、瑠奈は声を荒げた。
見付けなければ、と思っていた華子だが、やはり見付けた後が大変だった。
(ど、どうしよう?)
華子が困惑していると、あの音が――
テケテケ……
瑠奈があからさまに固まる。
「ひッ……」
小さく悲鳴を上げ、泣きそうな顔で辺りを見回していた。
「とにかく、三階へ行こう、平井さん」
華子は瑠奈の腕を掴み、無理矢理にでも立たせようとするが、どうやら瑠奈は腰を抜かしてしまっているらしい。
その間にも、あの音は近付いてくる。
テケテケ……テケテケ……
廊下の方――からではない。
(ま、まさか……)
月明かりに浮かび上がる影は、窓から徐々に華子達がいる教室へと伸びる。
「いや……いや……いやぁ」
瑠奈はパニックになっている。
華子は、そんな彼女が見えないように傍へ屈んだ。それが無意味だと分かっていても、それだけができることだった。
それは、ぬらりと姿を現した。




