一話 呪われた彫刻5-1
黒い雲が、また厚くなっている。雨は雫というよりは水の線のようだ。
「今日も雨かぁ……って、当たり前か。梅雨だもんね」
華子は、いつも通り一人で通学路を歩きながら、呟いた。
「でも、梅雨の空っていうよりも……なんかゲリラ豪雨の時みたいに暗い……体も重いし」
これにも答える友達はもちろんいない。
今から独り言が多かったら、ボケるのはやいんじゃない、と唯一の友人に言われたことがある。
余計なお世話だ。そうなっても、ずっと小学校の三階の女子トイレに通い詰めてやる、と答えてやった。
すると、幽霊友人から、『妖怪トイレ通い』と命名された。すでに、そうなっている気もする。
昨日も本当は友人の――花子に会いたかったのだが、体調を崩してしまった。華子には時々あることだった。
悪い気が集まる場所へ行くと、体調を崩す。頭痛や眩暈、酷い時は発熱する。
今回は、確実にあの彫刻の中の奴らのせいだ。花子が押し返してはくれたが、悪い気には当てられていたのだろう。
帰ってからすぐ発熱した。母親は、華子のことを体の弱い子と思っているらしく、朝病院へ行くように促して、自分は会社へ行った。それを華子は別に薄情とは思わなかった。彼女はいつも華子に選ばせる。それはきっと責任を放棄しているのではなく、子どもを尊重してくれているのだろうと華子も分かっていた。母親は、いつだって厳しいが味方でいてくれると信じられた。
母親への信頼が強くなったのは、いじめが酷かった小学四年生の時だ。
学校へ行きたくない。
キーホルダーを取られた日、正直に言えば、母親は『嫌なら行かなくていい』とあっけらかんと言った。学校は確かに行った方が良い所ではあるが、嫌な想いをしに行く場所ではない。ただ困惑する父親に、母親は言った。好きなことや目的が、嫌な想いを上回って行けると自分が思えるなら行きなさい、最後に母親は華子にそう告げた。
華子は行くことを選択した。だって、花子に会いたいから。
(そういえば、花子に会っても、体調は崩さないんだよなぁ。きっと花子が気を使ってくれてるんだろうけど)
いじめは、あのキーホルダーの事件(華子にとってあれは事件だった)の後、徐々になくなっていった。それも花子のおかげだろうと、華子は知っていた。あれ以来、いじめグループは、怖がって教室の近くだった三階のトイレには近付かなかった。華子のことも、どこか怯えたような目で見ていた。あの時、花子を呼び寄せたのは、華子だと思っていたのだろう。今となっては分からない。




